倉敷市をどういう都市にしていくのか。中四国地方初の女性市長になる伊東香織氏にとって、重要なのはこれからだ。
当選後のインタビューで、伊東氏は「スタートラインに立たせていただいた。みなさんと一緒に新しい世界に誇るまちに変えていきたい」と抱負を語った。地方分権や将来の道州制をにらんだ動きが進む中、地域は大きな変容を迫られ、県都の岡山市は政令指定都市移行へ踏み出している。中四国地方の一体化も視野に入る。岡山県内だけでなく、もっと広いエリアの中での倉敷市の位置づけが欠かせない。「世界に誇るまち」を目指すには、岡山市との関係も含め、地域全体を見渡した戦略が求められる。
伊東氏が選挙戦で掲げた「市政刷新」という訴えは、何をどう変えようとしているのか、見えてこない。選挙戦のマニフェスト(選挙公約)は子育て支援を前面に出すなど、落選した現職と大きな差はなく、政策の中身で突出していたわけではない。市民は山積する課題の解決に、新たなリーダーの手腕を求めたといえよう。
新市長がすぐに向き合わなければならないのが、倉敷チボリ公園の問題だ。美観地区と並ぶ一大観光スポットである同公園は今年末で「チボリ」の名称が使えなくなり、来年以降の在り方については、運営するチボリ・ジャパン社の結論待ちという状況だ。JR倉敷駅そばにある緑あふれる公園は都心の貴重な空間である。
倉敷チボリ公園の行方は、駅周辺の鉄道を高架化する連続立体交差事業や沿線の土地区画整理事業など一帯のまちづくりにもかかわってくる。ほかでもない市の玄関口である。今ある財産をもっと生かす方向で考えるべきだろうが、自らが主体的に取り組む意思を示さなければ、倉敷市の将来像もあいまいになろう。
倉敷市は多くの地域資源に恵まれている。歴史、産業、観光と多彩で、美観地区や児島のジーンズ産業、水島コンビナートなどは全国ブランドだ。しかし、これまで十分に生かしてきたとはいえない。伊東氏は「潜在能力を発揮していない」と現市政を批判し、「倉敷の魅力と個性を伸ばす」と訴えた。具体的な施策を打ち出す必要がある。
若さや地元出身でないことは決してマイナスとはならない。むしろ外部からの視点とフレッシュな感覚で、市政の現状を分析し、斬新なアイデアと大胆な手法で改革を進めてほしい。財政事情も厳しさを増しているだけに、待ったなしだ。
福田康夫首相は、ロシアのプーチン大統領と会談し、平和条約締結を目指して北方領土問題の交渉を継続することで一致した。東シベリアで初の油田共同開発に着手することや、七月の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)のテーマになる地球温暖化防止に向けた連携強化でも合意した。
会談は、モスクワ郊外の大統領公邸で友好的な雰囲気の中で行われた。領土問題で、福田首相は「日ロ関係を高い次元に引き上げるためにも、交渉を具体的に進展させていくことが不可欠だ」と迫り、プーチン大統領は「未解決の問題があることは認識している」と応じた。
北方四島返還を求めるというのが日本の立場だが、ロシア側は一九五六年の日ソ共同宣言に基づく歯舞、色丹の二島返還での幕引きを狙い、両国の主張には依然として深い溝がある。
今回の首脳会談は、福田首相がプーチン大統領、メドベージェフ次期大統領と信頼関係を構築することで、政権交代後も領土交渉で局面打開の糸口を探る狙いがあったといえよう。
今後の鍵を握るのが、東シベリア油田開発などの経済協力だ。日本の技術協力や貿易投資拡大をてこにロシアの譲歩を引き出す戦略である。
ロシアにとっても、インフラ整備が遅れた極東地域開発で、日本への期待は大きい。安全保障問題で欧米との摩擦がくすぶり、広大な国土を接する中国への警戒感などもあって、日本の存在は重要になっている。
日ロ両国は二〇〇三年に安保や経済など幅広い協力をうたった日ロ行動計画に合意し、経済交流は大きく拡大したが、領土問題は全く進展しなかった苦い前例がある。日本は四島返還の原則を堅持して粘り強く対話を進める必要があろう。
(2008年4月29日掲載)