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摂食障害と向き合う:/4 親ら、共に悩み・学ぶ

 ◇振り回され疲弊、交流が救いに--「子を受け入れ、支えよう」

 娘の部屋で見つけた下剤と大量のダイエット茶。時々、異臭が立ちこめ、流れが悪くなるトイレ--。千葉県の50代の主婦が異変に気づいたのは6年前。日常の痕跡は高2の娘が食べては吐いている事実を物語っていた。

 高1の時、いじめが原因で不登校になった娘は「きれいになって見返してやりたい」とダイエットを始めた。高2で拒食症に。娘から笑顔が消えた。いじめのトラウマと大学受験のストレスで、体重は十数キロ減った。

 主婦が買い物に出掛けると、携帯電話に娘からのメールがひっきりなしに届き、ほしい食べ物を伝えてくる。どの店の商品かこだわるため、何度も引き返しては、娘の望む食べ物を買い歩く日々が2年続いた。

 ちゃんと食べて早く元気になってほしい。そう願っているだけなのに、何か言えば、すぐ口論になる。「お母さんは何も分かってくれない!」。裸足で外に飛び出し「死にたい」と泣き叫ぶ娘に、どう接していいのか途方に暮れた。夫は仕事ばかりで、娘の病を理解しようとしない。相談相手もいなかった。「全部、私が悪いんだ」。主婦は自分を責め続け、心労から突発性難聴になった。

   *

 わが子が摂食障害になった時、どう向き合えばいいのか分からず戸惑う親は多い。一番苦しいのは本人だが、体重や食事を巡って衝突し、症状に振り回されて親の方が疲弊してしまうことも少なくない。そんな親同士が悩みを分かち合い、助け合う家族会が全国各地にある。「ポコ・ア・ポコ」(千葉市)もその一つだ。

 同会は国立国際医療センター国府台(こうのだい)病院(千葉県市川市)で治療を受けた摂食障害患者の家族が01年に結成した。メンバーは約60人。月1回、同病院に集まり、悩みや愚痴などをざっくばらんに話し合う。病気の知識を深め子どもを支えていくための勉強会も開いている。

 代表を務める鈴木高男さん(61)は「親にも心の居場所が必要。話し合いの中から、自分の子どもに合った対処法を見つけることもできる」と話す。

 鈴木さん自身も、長女が中学1年から約10年間、摂食障害に苦しみ、同病院に入院した経験を持つ。治療を拒み続け、体重が24キロを切った時には娘の死も覚悟した。手のかからない「いい子」だった長女。「死にたい」と書き連ねたノートから悲痛な叫びが伝わる。「親の期待を先読みして、それに応えようと無理していたのかもしれない」。仕事にかまけ、家族を顧みなかった自分を責めた。

 摂食障害では、子どもと接する機会の多い母親の負担が重くなりがちだ。「母親の大変さを理解し、支えるのが父親の役割」と鈴木さん。自身が経営する喫茶店でも家族会を開き、相談に応じている。

   *

 「子どもにとって体重35キロがボーダーライン。超えるとパニックを起こす」「『やせることだけが自分にできることなのに、それを否定されたら生きていけない』と泣かれた」「身内から『甘やかすからだ』と非難された」。1月に同病院で開かれた家族会には、12人が参加し胸の内を吐露した。既に子どもが回復した親たちが助言する。

 前出の主婦も3年前から同会に参加している。「娘への接し方を教えてもらって楽になった」と語る。「今まで私がすべてのレールを敷いてきた。やっと、娘を大人として尊重し『自由にやりたいことをしなさい』と言えるようになった」。母親が変わると、娘も変わった。今は元気に大学に通っている。恋人もできた。

 「親は症状だけを見がちで、食べ吐き行為の裏で心に抱えているものを理解していないことが多い。まず、今の子どもの状態を受け入れることが大切」と鈴木さん。「答えは本人が見つけるもの。時間がかかっても焦らず、本人が自分で生活を改善し、自立するのを支えてあげてください」【川久保美紀】=つづく

 ◇心理的ストレスなど発症要因複雑

 摂食障害の発症原因を巡っては、親の育て方や家族関係に問題があると考えられていた時期もあったが、近年は変わりつつある。

 久里浜アルコール症センター(神奈川県横須賀市)の心理療法士、武田綾さんによると、こうした考え方が強かったのは70年代後半~80年代。父親が仕事で不在がちな母子密着の家庭環境を背景に、母親の育て方に問題があったため発症するとみられていたようだ。

 もちろん、親の過保護や過干渉で子どもが自己主張できない▽無関心や放任などで愛情に飢えている--などのような家庭環境が、発症原因になるケースもある。だが、武田さんは「家族関係も一つの要因だが近年はむしろ、本人の資質や、やせ礼賛の社会的風潮、人間関係や進路などの心理的ストレスが複雑に絡み合って発症するというとらえ方が主流」と説明する。「適切な親子のかかわり方や支援のあり方を考えていくためにも家族会の役割は重要」と話す。

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 ■全国の主な家族会

 ★ポコ・ア・ポコ(千葉市)

 ホームページ http://homepage3.nifty.com/tumugi55/

 ★福島お達者くらぶ(福島市)

 ホームページ http://www.ipc.fukushima-u.ac.jp/~e100/index.htm

 ★マーサウの会(甲府市)

 同市住吉の住吉病院内(大河原さん電話055・235・1521)

 ★あゆみの会(大阪市)

 事務局電話090・3033・3197、メール ayuminokai@yahoo.co.jp

毎日新聞 2008年4月29日 東京朝刊

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