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離島で36年間、船による救急搬送を担った男性が引退へ (1/2ページ)
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広島県尾道市沖の離島、百(もも)島で、約36年間にわたって自分の船を使って救急患者を本土に搬送してきた農業、旗手正守さん(87)が今夏までに引退する。市が募集していた後継者のめどがたち、専用の救急搬送船の配備も決まったため。島民の命を支えてきた旗手さんは「人のため、という気持ちで頑張ってほしい」と、後進にエールを送っている。
百島は、尾道の市街地から約5キロの瀬戸内海に浮かぶ人口672人(3月末現在)の島。平成11年に開通したしまなみ海道のルートからはずれ、船を持たない住民は、日中1、2時間間隔で運航されるフェリーなどが唯一の対岸への交通手段だ。
旗手さんが救急搬送を始めたきっかけは昭和47年に起きた、妻の弟が屋根から転落した事故。対岸の病院に搬送を依頼したが、船はなかなか来ず、病院到着前に息を引き取った。まだ30代だった。
「こんなことで、人が死んではならない」。その一心で市と掛け合い、委託を受けて所有する5トンの木造船「旗正丸」による救急搬送を始めた。旗手さんは連絡を受けると、港で運ばれてきた患者と合流、船に乗せて対岸へ渡って救急車に引き渡す。この間、妻のミチ子さん(81)が、消防に状況を連絡する連係プレーだ。
台風が接近するなか、危険を承知で患者を運んだこともあった。また、事故で指を切断した島民をいち早く搬送し、接合手術が成功したこともあったという。
急患は昼夜を問わず、電話を枕元に置いて寝るなど、負担は大きかった。戦時中、乗っていた輸送船が攻撃を受けて沈没、浮いていた木箱にしがみついて命拾いした経験を持つ旗手さんは「死んでいたかもしれない人生。それを思うと『人のために』という気持ちがあった」と振り返る。