直近の民意といっても、それはそれ。当初方針は変更せず−。大敗ショックを押し隠し、与党は「三十日再可決」を確認した。「選挙と関係ない」で済ませては、選挙民の神経を逆なでしよう。
自民、民主両党候補の一騎打ちとなった衆院山口2区補選で惨敗した与党。一夜明けてのキーワードは「結束」だった。
結束固めは、敗北の衝撃度の強さの裏返しでもある。与党内には支持率の低迷から抜け出せない福田康夫首相へ不信が募っている。ここで不協和音が公然と出るようでは政権は立ち行かなくなる。執行部のそんな焦燥感が引き締めにもつながっている。
首相と太田昭宏公明党代表はガソリン税の暫定税率を復活させる租税特別措置法改正案を三十日の衆院本会議で再可決することを確認した。二〇〇九年度からの道路特定財源の一般財源化へ年内の法案取りまとめでも一致した。
党首会談に先立ち、自民党はこの方針を役員会と総務会で了承。さらに各派閥の会合を開き、結束して行動することを確認した。激しかった選挙戦とは対照的に、一連の手続きが淡々と進んだ。
期限切れとなったガソリンの暫定税率復活問題、後期高齢者(長寿)医療制度など、暮らしに直結する国民注視の争点で、与党側の主張はそっぽを向かれた。選挙後の重要な仕事は、有権者のメッセージを分析し、対応策を練ることにあるはずだ。その作業を欠いて「方針は揺るがない」と、再可決ありきを貫くのはいただけない。
三十日の再可決後、政府は政令で五月一日から暫定税率を復活させる。ガソリン値上げに伴う混乱は、値下げ時とは比べものにならないだろう。既に値上げを見越してドライバーの駆け込み給油が相次いでいる。いずれ国民の理解が得られるというなら、政府・与党は万全の手当てを講じるべきだ。
敗因とされた高齢者医療制度についても、首相や与党は「説明が足りなかった」として、制度自体に手は加えない方針だ。
首相は舛添要一厚生労働相に「国民の目線でしっかり対応してほしい」と指示した。ここはお年寄りの意見を聞き直すぐらいでないと、広がった不信はなかなか消えない。
今回の投票率は、補選としては高水準の69・00%に上った。有権者が高い関心を示す中、二万票を超す大差がついた。それを黙殺するようなことがあるとしたら、政治の原点が怪しくなる。
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