福田康夫首相とプーチン・ロシア大統領は二十六日の会談で、日ロ関係を高い次元に引き上げることで一致した。そのためには北方領土問題の解決が不可欠であることを、ロシアも理解すべきだ。
初顔合わせにしては、それなりの成果を挙げた首脳会談だった。領土問題では進展はなかったものの、東シベリアで初の油田共同開発を進めることで合意した。
エネルギーの生産拠点である西シベリアでは、ピークに達した産油量が下り坂に差しかかっている。このため、東シベリア開発が急務になっている。ロシアが日本に期待するのは、高い技術力だ。
一方、輸入原油のほぼ九割を中東に頼る日本にとっては、エネルギー安全保障を高めることにもつながる。共同開発合意は双方の利害が一致した結果だ。
ただ、東シベリアで有望な油田が見つかるかは未知数だ。発見できないと、東シベリアから日本海に達するパイプライン計画も、画餅(がべい)に帰す。
日本企業も参画したサハリンの天然ガス開発事業が、ロシア側に経営主導権を奪われる問題も起きた。政府はこうしたリスクをわきまえるべきだ。
首相の訪ロは、ロシア側が再三にわたり要請していた。首相を迎えた大統領はテレビカメラの前で「われわれの間には多くの未解決の問題があることは十分承知しているが、それでもあなたとお会いできてうれしい」と歓迎した。
単なる外交辞令だと片付けるわけにはいかないほど、ロシアはこのところ対日接近へと外交姿勢を変えている。
ロシアは西では、東方拡大を進める北大西洋条約機構(NATO)とぶつかり、東では、四千キロ以上も国境を接する中国に脅威を感じている。エネルギーの生産拠点が東に移るのに伴い、アジア向けの供給を増やす計画もある。
こうした内外の事情から、ロシアはアジア・太平洋外交に本腰を入れだした。二〇一二年にはアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議をウラジオストクで開催する。対日重視もそんな流れに沿った動きだ。
だからといって、ロシアが領土交渉で柔軟姿勢にすんなり転じると期待するのは楽観的すぎる。
それでも首相は、この好機を逃さないでほしい。懸案を処理して高次元の関係を構築することが、両国の利益になることを、ロシアに粘り強く説いてもらいたい。
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