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社説1 高齢者医療は運営を早急に立て直せ(4/29)

 75歳以上の人を対象とする新しい医療制度が始まって1カ月たとうとしている。27日に投開票された衆院山口2区の補欠選挙で民主党候補が勝利したのは、与党が狙うガソリン税の暫定税率復活と、この制度への批判票を集めたためだ。

 補選敗退を受けて福田康夫首相は早速、舛添要一厚労相に「国民目線でしっかり対応してほしい」と、制度の運用に見直すべき点がないかどうかを検討するよう指示した。

 首相指示を待つまでもなく、制度運営は多くの課題を抱えており、改めるべき点が多々ある。いまだに保険証が届かない人が約2万人いる、厚生年金などから天引きされる保険料の額が本人に直前まで正確に知らされていなかった――などだ。

 こうした運営上の失策は早急に改善する必要がある。それには事務を担当している市区町村の広域連合が当事者意識をしっかりと持つことが必要だ。広域連合は都道府県単位の寄り合い所帯であり、保険運営者としての自覚に欠けている。高齢者の立場をおもんぱかって懇切丁寧な運営を尽くすことが不可欠である。

 もちろん厚労省にとっても人ごとではない。保険料をなぜ年金から徴収するのか、かかりつけ医の体制がどう変わるのか、などについて説明責任を果たしてこなかったことを真摯(しんし)に反省してほしい。

 この制度の財源構成は次の通りだ。高齢者への公的な医療給付費のうち50%を国と自治体の税金で賄い、40%は現役の働き手が健康保険制度を通じて拠出する。残る10%が高齢者本人の保険料負担だ。

 少子化や長寿化が進むなかで限られた医療財源を効率的に使う観点から、高齢者に相応の負担を求めるのは理にかなっている。保険料を年金から天引きすることは徴収の確実性を高めるためにもやむを得まい。

 給付費の90%を税と現役拠出金で支援する仕組みは、罹患(りかん)率が高まり保険原理が働きにくくなる高齢者にとって、むしろ有利な財源構成といえるのではないか。

 従来は家族に扶養されていた高齢者にも保険料がかかるようになるのは改悪であり、制度は廃止すべきだという意見が野党から提起されている。しかし足りなくなる財源をどう賄うのか、対案なしに廃止を叫ぶだけでは責任野党とはいえない。

 高齢者医療への拠出金を捻出(ねんしゅつ)するために、保険料率を上げて働き手の負担を高めた健保組合もある。高齢者医療の費用分担は常に現役世代や将来世代が背負う負担との見合いで考えるべきである。

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