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社説:暫定税率 再可決の環境にはほど遠い

 政府・与党は、30日に租税特別措置法改正案を衆院で再可決し、ガソリン税などの暫定税率を復活させる方針だ。さらに、5月12日以降に再可決が可能となる道路整備財源特例法改正案も成立させるという。

 衆院の3分の2の勢力を背景に憲法の「60日ルール」に基づく「みなし否決」を適用する力の政治である。衆院山口2区補選結果を無視したままの1月の新テロ対策特別措置法案に続く再可決は「乱発」と言われても仕方ない。

 福田康夫首相は、国、地方の歳入欠陥を最小限にとどめたいとの思いなのだろう。しかし、再可決の環境は整っているだろうか。

 毎日新聞は「09年度からの道路特定財源の一般財源化」との首相提案を評価し、実現の道筋をつけるよう求めてきた。首相提案は政府・与党方針となり、首相は重い腰を上げて方針の閣議決定を決断、自公両党首は一般財源化の法案を年内にまとめることで一致した。

 が、不思議なのは、首相はなぜ、この方針を自民党の常設の最高意思決定機関である総務会で決めないのか、ということだ。道路族の反発を恐れているからなのだろうか。また、特例法改正案は、ガソリン税の税収を道路整備費に充てる措置を今年度から10年間延長する内容である。明らかに首相方針と矛盾する。大幅な修正が必要だろう。

 国民は、政府や党の方針が正式手続きを経ないままほごにされる場面を、たびたび見せつけられてきた。そして、本音では一般財源化に反対の道路族は自民党内で有力な勢力である。「来年度までには骨抜きにされるのではないか」「首相が交代したら空手形に終わるのでは」--。誰もが抱く疑念を解消しないまま再可決に踏み切るなら、不信を助長するだけだろう。

 与党側は、特例法改正案を修正できない理由に、民主党の対応を挙げている。修正しても、今年度からの一般財源化を求める民主党が反対すれば、修正案の再可決に60日が必要となり、道路予算の執行がさらに遅れるということなのだろう。民主党は一般財源化自体には賛成しているのだから、この際、修正に前向きに対応する方法もあろう。

 再可決は、確かに憲法が認める制度である。福田内閣以前に再可決で成立した法律は28件あった。ところが、内容をみると、参院からの回付案に同意せず、再可決したのが26件。参院の否決法案、「みなし否決」による法案は各1件に過ぎない。9割以上は、参院が法律の策定を認めたうえで内容修正したことに対し、再可決で応じたものである。過去の与党が再可決に抑制的だったと同時に、野党も法案の修正に重点を置いて対応していたことを示している。

 今回、このまま再可決に踏み切れば、与野党対立を激しくし、「ねじれ」を深刻化させるばかりだ。

毎日新聞 2008年4月29日 東京朝刊

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