先の本紙投書欄に「昔の常識が通用しない」と嘆く85歳男性の一文があった。病院窓口で「傷痍(しょうい)軍人」と言ったが看護師さんが理解できなかったと言うのである 戦争でけがをした元軍人のことを知らない世代が増えた。そういう戦後生まれにしても、かつて繁華街の片隅でアコーディオンを弾いていた悲しい姿を思い出すしかなく、「傷痍軍人」を正確に理解していると胸は張れない 戦後復興を成し遂げた日本人の底力と夢を描く「昭和ブーム」は根強い人気だ。戦前の強い倫理観に触れたいとの思いがブームの根底にあるともいう。だが、戦後復興の主役は明治・大正世代だったことに気づく人は意外と少ない 戦中派ほどの苦労知らずの団塊の世代までが、自分が戦後の主役と思っているように見受けられることがある。記憶は日々薄れて当然だが、多大な犠牲を払った人たちと、その世代を思いやるのが先だろう 戦前と戦後、昭和は二つの時代のようでいて、紛れもなく一本でつながり平成の今がある。先達の苦労を知り、老いと若きが時代の体験を共有できてこその「昭和の日」だろう。
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