この選挙結果を受けて政治はどう動くか、さらに政局にどう影響するのか。自民、民主両党の公認候補による一騎打ちとなった衆院山口2区補欠選挙で、民主党の前衆院議員が自民党新人を破った。
「ねじれ国会」で政治が混迷する中、福田康夫首相と民主党の小沢一郎代表は「直近の民意」をかけて負けられない戦いだった。次期衆院選をにらみ、互いに指導力を確保するためにも勝敗は重要な意味を持つ。
初の国政選挙だった福田首相にとって、敗戦のダメージは大きいだろう。民主党候補を下すことで、揮発油税などの暫定税率期限切れや日銀総裁人事をめぐる一連の混乱で低下した求心力の回復を狙ったが、さらなる求心力低下は避けられず、政権運営は厳しさを増そう。
特に日銀総裁人事では小沢代表に翻弄(ほんろう)された感があった。一矢を報いたいところだったが、逆に相手を勢いづかせる結果になった。
補選の大きな争点は、暫定税率の是非に加え、急浮上した七十五歳以上を対象にした後期高齢者医療制度の問題だった。当面、注目されるのが暫定税率の扱いである。二十九日以降、暫定税率維持を盛り込んだ税制改正法案は、憲法の「みなし否決」規定で衆院での再議決が可能になる。
福田首相は補選の結果にかかわらず、三十日に再可決して成立させる方針を示している。しかし、敗北により与党内に再可決に対する慎重論が高まる可能性がある。厳しい判断が迫られるだろう。
勝った小沢代表は「選挙に強い小沢」を実証した形になった。ただ一選挙区での勝利が国民の信任を得たとするには無理がある。強引な政治手法が強まれば、しっぺ返しは免れまい。
政府が閣議決定した二〇〇八年版少子化社会白書は、十五歳以上の就業可能な「労働力人口」の減少見通しに強い懸念を示し、社会や経済に大きな影響を与えると警鐘を鳴らす。
この時期に少子化社会白書を出すのは異例である。例年は秋から年末にかけて決定されるが、今回は昨年十一月の〇七年版白書から約半年という間隔でまとめられた。
政府が昨年末に新たな少子化対策として打ち出した「子どもと家族を応援する日本」重点戦略や、「仕事と生活の調和(ワークライフバランス)憲章」の周知徹底を図るのを目的に、前倒し措置が取られたという。少子化が止まらない現実に危機感を強め、新しい対策の成果を早期に出そうとする姿勢は理解できる。
白書は少子化に有効な手を打たなければ、労働力人口は〇六年の六千六百五十七万人から五〇年には四千二百二十八万人にまで減るとする。約三分の二に落ち込むことになり、経済力の低下や年金、医療、介護費の負担増など広範囲な分野に悪影響が及ぶと指摘する。
日本が歩みつつある人口減少社会は、単純な人口規模の縮小ではない。高齢者の増加という人口構造の変化を伴うため、労働力人口は高齢化しながら減っていくと白書は予測する。社会の活力衰退は否めず、持続的な発展は難しいだろう。
政府は新たな少子化対策として、仕事と子育ての両立が可能な労働環境の整備を最優先する。働く女性が増える中、出産や子育てがしやすい職場をつくるとともに、女性の継続的な就業を目指す。
少子化対策としては、これまで医療費の補助など経済的支援が中心だったが、効果は限られた。フランスやスウェーデンなどでは、経済的支援とともに育児休業制度や保育サービスの充実といった仕事と子育ての両立支援を強め、少子化に歯止めがかかっている。
子どもを産むかどうかは個人の生き方に関する問題だが、両立支援は出産を後押しする効果は期待できよう。さらに政府はワークライフバランスの視点も重視し、長時間労働の是正など働き方の見直しも提唱する。ゆとりのある生活は、女性だけでなく社会全体にとっても大切なことである。
白書はこの二点を同時並行的に推進することが不可欠とする。方向性は評価できるが、企業や国民に意識改革を促すとともに、税制面の優遇措置など行政の手厚い支援がなければ実効性は得られまい。
(2008年4月28日掲載)