風知草

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風知草:一般財源化に失敗しない方法=専門編集委員・山田孝男

 道路特定財源の一般財源化はいいことだからおやりなさいと新聞の社説は書くが、世間はできっこないと見ている。社説は理屈、世間は実感だ。この課題は安倍晋三も、小泉純一郎でさえも持て余した。福田康夫にできるのか--。

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 秘策がある。

 (1)道路整備費財源等特例法を廃止する。

 (2)地方道路税法など譲与税4法の使途規定を削る。

 (3)地方税法699条の33と700条の55も削る。

 これでいい。以上をやり遂げれば完ぺきだ。特例法はガソリンに含まれる税金のうち、揮発油税などの国税分を道路に充てる法律。(2)の4法は、国から自治体へ回る譲与税を道路に向ける。地方税法は自動車取得税と軽油引取税の使途を縛る。これらがなくなれば、自治体の裁量権は飛躍的に増す。

 そうそう、もう一つ、忘れちゃいけないコツがある。先送りしないことだ。この国会ですぐにやる。この点で「今年の税制抜本改正時に廃止し、09年度から一般財源化する」という福田提案(3月27日の記者会見)はとてもひっかかる。

 「来年やります」という公約が跡形もなく消えてしまった実例を引こう。安倍政権下の06年12月、政府・与党は、一般財源化については「08年通常国会において所要の法改正を行う」ことで合意した。が、07年参院選で与党は惨敗し、間もなく安倍は退陣、一般財源化どころではなくなった。明日のことは分からないのである--。

 以上は片山善博(慶応大法学部教授)の受け売りだ。ガソリンと政治について何度も片山の見方を聞いてきたが、どうやって一般財源化を実効あらしめるかという問いに対する回答者として、片山ほどふさわしい人物は見当たらない。

 前鳥取県知事であり、その前は旧自治省の府県税課長だった。税法に詳しい役人はゴマンといるだろうが、政府から給料をもらい、霞が関の影響下にある人は官僚共同体の足を引っ張るようなことは言えない。

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 衆院補選後も国会攻防の中心はガソリンだ。連休谷間の今週、与党は衆院の3分の2による再議決で揮発油税の暫定税率を復活させ、ガソリンを高値に戻す。連休明けからの第2幕の焦点が道路財源特例法だ。

 与党はこれも再可決し、総事業費59兆円の新・道路整備10カ年計画を軌道に乗せようとしている。だが、向こう10年間特定財源を認めるとなると、来年度から一般財源化するという福田提案と矛盾する。

 野党はこの点を突き、「10年を1年に圧縮せよ」の声も出ているが、生ぬるい。1年でも先送りは先送りだ。ここは「廃止せよ」でなければいけない。「来年やります」のワナに落ちないために--。

 小泉は01年春の就任直後から道路特定財源改革を唱えたが、年末の予算編成で道路族と国土交通省に突進を阻まれた。一般財源化はごく一部(国税分の8%弱。02年度限り)にとどまり、族議員・官僚支配の根幹は崩れなかった。当時の小泉は、郵政選挙に圧勝してカリスマ化した小泉ではなかった。

 福田の場合、カリスマどころの話ではない。が、一般財源化を持ち出した以上、王道を進むしかない。片山の秘策が本丸攻略の筋道だ。野党の足並みがそろわぬうちに再提案へ踏み込んではどうか。(敬称略)(毎週月曜日掲載)

毎日新聞 2008年4月28日 東京朝刊

 

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