キャリアな女のためのアメリカ大学院留学ガイド 8



留学の準備 

 

推薦状

キャリアな留学の学生にハンディがあるとすれば、一つはこれだ。推薦状。学生上がりで大学院に行くのであれば、大学の先生(ゼミの指導教員)に書いてもらえばよい。ゼミの指導教員は仕事なので、そのゼミで卒業論文なりをちゃんと書いてさえいれば、絶対に嫌とは言わない(よい推薦状を書いてくれるかどうかは別問題)。ところがキャリア組みの場合、特に大学を卒業してから時間がたっている場合、ゼミの先生が退官していたり、最悪亡くなっていたりして、大学からの推薦状がもらえないことがある。アメリカといえどもアカデミアなので、やっぱりアカデミアからの推薦状が一通はほしいところだ。

アメリカの大学院に応募する場合、応募書類の中に通常3通の推薦状が必要となる。大学によっては応募者が自分で送るのではなく、推薦者から大学に直接送ってもらうように指示される場合もある。本人が送ると、その人が捏造しないとも限らないという配慮からである。

日本でも就職するときに、ゼミの教員の推薦状を求める企業があったりするが、これはほとんど形式的なもので、推薦状の形さえとっていれば、中身はなんでもよろしいというものであることが多い。ようするに「人物保証」という程度のものだ。だが、アメリカでは推薦状は、実質的に本人の情報を含む重要なものであると位置づけられている。だから、その内容は当落に大きく影響するので覚悟しよう。

大学は推薦状を通して貴女という人物を立体的にとらえようとする。だから3人の推薦はなるべく、別の角度から貴女を評価してくれる人を選ぶべきである。キャリア留学の場合、一通を職場の上司、一通を出身大学の教官に頼むのがスタンダードである。3通目は悩むところだが、「ボランティアをしている先のリーダー」あたりが一番いい。アメリカ人は神父さんに頼む人もいるらしい。

さて、大学の教員に推薦を頼む場合は、おそらく経験があるので問題はないが、相手によっては、アメリカでの推薦状は日本のそれとは違うということを説明しなければならない。アメリカでの推薦状は最低でも次の2つの情報を含む必要がある。一つは、推薦人と被推薦人との関係。たとえば、大学のセンセイなら、「私は彼女の指導教員で、彼女は2年間私のゼミに所属していました」というような書き出し(英語で)になる。どのように知り合ったのか、何年間その人のことを知っているのかということが入っていなければいけない。当然のことながら、3ヶ月くらい前からの知り合いでは知り合いとは言わない。半年の授業を一つ取っただけというのもいまいちだ、ということになる。内容の二つめは、もちろん推薦者がどのように推薦に値するかということ。これについては形容詞ではなく具体的な情報が必要となる。たとえば、「彼女は明るくて積極的な性格だ。素晴らしい女性である」なんていうのは、推薦状としては一文の値打ちもない。求められているのはたとえば「彼女の卒業論文は『移入生物の社会的費用について』というタイトルで日本の河川におけるブラックバスによる損失の計算を行った。近年類似の研究は数多くあるが、彼女の論文の優れたところは、「国内の固有種の絶滅」という、通常の市場では計れないものについて、仮想市場を想定して評価したところであり・・・」というように、その人が何をしたのかその客観的価値はなんであるのか、が具体的に書かれていなければならない。英語の推薦状を書き慣れていないと、往々にして「彼女は明るくて・・・」になってしまうので注意が必要だ。

なお、英語で推薦状を書くのは大変面倒な仕事だ。賄賂というわけではないが、留学から帰ってきたら、異国の手土産などを持って一度くらいは推薦者を訪ねてお礼を言うのが礼儀である。大学の教員に限っては仕事のうちなので、手土産はいらない。だが、やはり帰国後に報告がてら研究室を訪ねるか、最低でも卒業時にメールを出すくらいのことはすべきであろう。それができないようではキャリアな女の価値はない。そのへんの学生あがりと同じと知るべし。

 

HOMEに戻る       次へ

 

→ 大学院留学ガイド*本屋さん*