浜岡訴訟判決書から引用。原告証人の実力不足が目立つ内容。
(1)SCC
「原告らは、SCCの検査方法はUTに頼るしかないが、その精度は著しく低いと主張し、証人井野博満も、SCCのひび割れの形状が複雑であること等によりUTによる計測値と実測値との間に大きな相違が生じていると証言する。(p.194)」
「近時発生した低炭素ステンレス鋼製の再循環配管等のSCCによるき裂については、き裂が溶接金属内部にまで進展し、横波を用いたUTではその深さを十分な精度で測定できない場合もあるという知見が得られたことから、縦波等を組み合わせた試験方法、いわゆる改良UTが開発された。この方法は、原子炉安全小委員会により測定精度の検証が行われ、現在では、改良UTが「き裂その他の欠陥解釈」に定められ、UTの信頼性の向上が図られている。(p.195-196)」
「証人井野博満は、福島第二原子力発電所3号機の再循環配管において平成17年の定期検査中に二次クリーピング法によるUTが実施されたが、配管の全周に及ぶひび割れからの超音波信号を配管裏面からの裏波と見誤り、ひび割れとの評価がなされなかった事象を捉えてUTの信頼性に疑問を呈している。(p.196)」
「この事象は、UTでは有意なエコーを検出していたものの、き裂の有無を判定する際にこのエコーがき裂からのものではないと誤って判断したことに起因する事象であって、UT自体の信頼性が損なわれるものではない。(p.196)」
「したがって、再循環配管におけるUTの精度に問題は認められず、原告らの上記主張は採用できない。(p.197)」
「原告らは、シュラウドのひび割れは内部で複雑な形状となるため、UTでは正確な計測値が得られないなどと主張する。(p.198)」
「しかしながら、被告は、前述のとおり、「き裂その他の欠陥の解釈」に基づき、確認されたき裂の両端に板圧分をそれぞれに加えたものをき裂の長さとして設定し、板圧方向の貫通き裂として想定するというモデル化を行うことで、き裂の大きさを実際よりも大きく、すなわち、き裂が存在する断面の残存面積を安全側に設定しているので、UTの測定精度が健全性評価の信頼性に影響を及ぼさないようにする対策が講じられていると認められる。なお、シュラウドリング部については、女川原子力発電所1号機及び柏崎刈羽原子力発電所3号機において採取されたサンプルによって実測されたき裂深さと、UTによって測定されたき裂深さとが、おおむね一致するとの結果が得られている。したがって、シュラウド等のひび割れについてのUT精度に関する原告らの主張は採用できない。(p.198)」
「原告らは、被告の行う検査の対象と頻度が不十分であると主張する。(p.199)」
「維持規格は、国際的にも実績のある米国の機械学会によって策定されたASME規格を参考にして、数多くの専門家によって十分に審議され、さらに原子力安全・保安院によって技術的な妥当性が評価された信頼性が高いものであり、維持規格の定める段階的な点検・検査の枠組みは、点検・検査の結果に応じて柔軟にその頻度や対象を設定できる合理的なものである。また、「き列さの他の欠陥の解釈」も、原子力安全・保安院が、健全性評価小委員会及び原子炉安全小委員会での専門家による審議を経て発出した指示文書であり、SCCについてり最新知見を踏まえた科学的かつ合理的なものであると認める。したがって、「き列さの他の欠陥の解釈」に基づく点検・検査により、経年変化事象が発生したとしても、それを早期に検知し処置を講ずることができるということができ、検査の対象と頻度が不十分であるとの原告らの主張は採用できない。(p.199-200)」
「原告らは、シュラウドには障害物の影響で目視検査の検査率がほぼ0%という箇所が存在すると主張する。(p.200)」
「民間ガイドラインにおいては、点検範囲に関し、点検に用いる通常の水中テレビカメラで対象溶接部の接近可能な部位を点検すれば、未点検部位があったとしても構造健全性に有意な影響を与えることがないことが示されていることをも併せ考えると、被告のシュラウドに関する検査態勢には問題がないものと認められる。(p.200)」
「原告らは、被告が平成7年に3号機再循環配管継手部のひび割れを認識していたにもかかわらず、国へ報告をしなかったことや、被告が平成13年の定期点検時に3、4号機のシュラウドにインディケーションないしひび割れを確認しながら、国へ異状なしとの報告を行っていたことなどを指摘して、被告の行った検査の結果には信頼性がないなどと主張する。(p.201)」
「当時、当該インディケーションが報告義務の対象ではなかったこと(当時の実用発電炉の設置、運転等に関する規則24条2項3号、「大臣通達による軽微な故障等の報告について」昭和63年11月8日付原子力発電運転管理室)からすれば、被告がSCCのインディケーションを確認しながら、国に対して報告しなかったことに不正はなく、原告らの上記主張は採用できない。(p.201-202)」
「原告らは、再循環配管の点検に関し、国が実施する定期検査では「異状なし」と報告されたにもかかわらず、被告の実施する自主点検ではひび割れと判断されている例があるとして、定期検査の結果に信頼性がないと主張する。(p.202)」
「しかしながら、国が実施する定期検査は斜角法のみによって実施されるのに対し、被告の実施する自主検査では、使用する深触子等の機器も多様であり、二次クリーピング法、端部エコー法、フチェーズドアレイ法、縦波斜角法等の手法も必要に応じて採用されるのであるから、定期検査においてインディケーションが発見されず、自主点検においてインディケーションが発見される例があること自体は不合理ではない。原子力安全・保安院も、国と被告の検査結果が異なった原因は、被告の定期検査で採用されている方法が、より感度の高い検査方法であることに起因するものであり、被告の報告等に不正や法令違反の事実は認められなかったとの見解を示している。(p.202)」
「原告らは、原子力安全・保安院がひび割れの基準として示しているDAC100%を越えるひび割れについても国に報告していなかったことは悪質であると主張する。(p.202)」
「しかしながら、国への報告義務が生じるのは、材料、溶接部に関する国の技術基準(通商産業省告示501号及び電気工作物の溶接に関する技術基準を定める省令)に定められている判定基準を超える欠陥とみなされた場合であり、単にDAC100%を越えるインディケーションが観測されただけで国への報告義務が生じるものではないから、原告らの上記主張は採用できない。(p.202-203)」
「原告らは、平成18年2月に3号機の使用済制御棒に確認されたひび割れ等に関し、平成7年の定期検査において、当該部位に指示模様を検知しながら、ひび割れと認識できず異状なしとしたことを捉えて、被告の点検能力に欠如があると主張する。(p.203)」
「しかしながら、IASCCに関する知見が得られていなかった平成7年当時の状況や、当該部位に当時発生していたひび割れの大きさは僅少でであったと考えられることからすれば、ひび割れと認識しなかったとしてもやむを得ない事情があったと認められ、原告らの主張は当たらないというべきである。(p.203)」
「原告らは、本件原子炉施設においてSCCを原因とする漏えい事故があることから、点検・検査によってはひび割れ等を貫通前に発見することができないと主張する。(p.203)」
「しかしながら、昭和63年9月17日に1号機インコアモニタハウジングにおいて発生した漏えい事故はSCCを原因とするものであるが、同号機が建設された当時、溶接における残留応力を除去するようなSCC防止策がとられていなかった。・・・当該漏えい事故が発生した時期に比べ、今日では、点検・検査の手法や精度が向上し、予防対策も進展していると考えられることからすると、当該事故発生に漏えい前にひび割れが発見できなかったとしても、直ちに現在の点検・検査がひび割れを発見するのに不十分なものということにはならない。」(p.203)」
「原告らは、SCCメカニズムは未解明であるからその防止のための対策を立てることができないと主張する。(p.205)」
SCC研究の現状と被告が実施している対策を述べた後、「本件原子炉施設では、1号機及び2号機のシュラウドの一部溶接部につきショットピーニング法が適用され、1ないし3号機の一部溶接部につきレーザーピーニングが適用されている。また、2ないし4号機の再循環配管の溶接部の一部についてIHSIが採用されている。(p.207)」
「原告らは、ショットピーニング法やIHSIなどの技術が用いられた実機でもSCCが発生しているとして、これらの技術の有効性は確認されていないと主張する。(p.207)」
「研究者らの実験により開発されたこれらの技術は、実機に近い条件での実験に基づき、実機でのSCCの発生を完全に防止することはできないにしても、その進展抑制には一定の効果があることが認められるから、原告の上記主張は採用できない(p.207)」
「証人井野博満は、Andersenらの論文や有岡らの研究成果をもとに、水素注入によって腐食電位を低下させても効果がない旨を証言する。(p.208)」
「しかしながら、その指摘の根拠となる論文の著者であるAndersenらは塑性加工を受けたL材においても低電位においては著しくき裂進展速度は低下すると結論付けている。・・・したがって、証人井野博満の上記証言は採用できない。(p.208)」
「証人井野博満は、貴金属注入による配管内の水素の蓄積が平成13年11月7日に1号機において発生した余熱除去系蒸気凝縮系配管破断事故の原因となったとして、貴金属注入を行うことの見直しが必要であると証言する。(p.208)」
「被告は、再発防止策として、配管内に水素を蓄積させないことを基本として、高濃度の水素が滞留し得る箇所であって、水素の燃焼が起こり配管が破断する可能性のある箇所を抽出し、対策を施しており、大きな配管の破断に至るような事象が発生することは考えられないから、同証言を直ちに採用することはできない(p.208-209)」
「原告らは、き裂進展評価の前提となるUTの精度、残留応力分布の解析、応力拡大係数にはそれぞれ問題があり、き裂進展評価に用いるき裂進展速度線図の設定もおよそ科学的なものでなく、かつ、保守的でもないから、予想よりも早くひび割れが進行する可能性があると主張する。(p.210)」
「しかしながら、前述のとおり、UTの測定精度については、シュラウドリング部においてはよく測定できることが確認されており、また、シュラウド胴部においてはUTの測定精度に影響を受けない安全側のき裂進展評価が実施されているのであるから、UTの測定精度を根拠として応力拡大係数に信頼性が欠けるとする原告らの主張は採用できない。(p.210)」
「原告らは、応力拡大係数の決定は近似式によるものであり、先に決められた炉心シュラウドの民間ガイドラインが4次式で近似していたのをさらに手抜きして3次式で近似することにしたものであるから、き裂進展評価に用いられる応力拡大係数には合理性がないかのように主張する。(p.211)」
「しかしながら、維持規格等の規格に定められた3次式と4次式は、いずれも専門家が最新の研究成果を基に、実機評価性等を審議して規格に採用されたものであって、科学的・合理的なものであることから、3次式を評価に適用することが手抜きと評価されるべきものではなく、原告らの蒸気主張は採用できない。(p.211)」
「原告らは、原子力安全・保安院が採用したき裂進展速度線図がNRC-CURVEの傾きを維持したまま日本国内の少数の実験データに合わせてずらしていることに科学的根拠がないこと、NRC-CURVEをずらす根拠とした実験データに硬化層のある試験片のデータがまったくないこと、溶接熱影響部に係わき裂進展試験の結果、低炭素ステンレス鋼のき裂進展速度線を越えるデータが採取されたことなどから、同図を用いたき裂進展評価には科学的根拠がないと主張する。(p.211-212)」
「き裂進展速度線図設定の根拠となった速度データについては、我が国で得られた速度データ以外にも、米国の研究プロジェクトが採取した低炭素ステンレス鋼のき裂進展速度データのうち、我が国の実機の条件に合致するものが参考にされており、基となる速度データが過少ということはない。実際にも、NRC-CURVE の傾きを採用したき裂進展速度線は結果的にJENESの試験により採取された速度データを包絡していることから、NRC-CURVE の傾きだけを採用することは不合理ではなく、むしろ安全側に設定されているというべきである。(p.212)」
「原告らは、冷間加工を受けた試料が鋭敏化SUS304ステンレス鋼のき裂進展速度線図を上回る速度データを示していることから、鋭敏化SUS304ステンレス鋼のき裂進展速度線図は過小評価であると主張し、証人井野博満も同旨の証言をしている。(p.214)」
「しかしながら、同証人が指摘する論文に引用されている冷間加工を受けた試料の速度データはいずれも当該データと硬さとの関係が不明であり、前提となる腐食環境も国内の原子炉水と異なるものと考えられるから、同論文のデータをもって直ちに鋭敏化SUS304ステンレス鋼のき裂進展速度線図が過小評価であるということはできない。(p.214)」
「証人井野博満は、シュラウドの健全性評価に用いるき裂進展速度線図としては低炭素ステンレス鋼のき裂進展速度線図ではなく、鋭敏化SUS304ステンレス鋼のき裂進展速度線図を用いるべきであると証言する。(p.214)」
「しかしながら、シュラウドについても、モックアップ試験体から採取された試験片での速度データは低炭素ステンレス鋼のき裂進展速度線図に包絡されていることが確認されていることから、シュラウドの健全性評価に用いるき裂進展速度線図に関して溶接熱影響による硬化が確認されている再循環配管母材硬化部と同じように鋭敏化SUS304ステンレス鋼のき裂進展速度線図を採用すべきであるとする同証人の指摘は採用できない。(p.215)」
「原告らは、耐震設計は機器・配管が新品であることを前提として行われるが、本件原子炉施設の現実の機器・配管には無数のひび割れが存在するし、点検・検査の範囲や精度の限界から、すべてのひび割れを発見することはできないことを考慮すれば、本件原子炉施設の耐震安全性の確認においては、発見されずに存在するひび割れを想定して行うのが当然であり、安全上重要な機器において、最悪のひび割れを想定すべきであると主張する。(p.216)」
「しかし、機器・配管のひび割れについては、原子炉施設の耐震設計とは別に、それ自体のリスクが考慮され、前期のとおり、様々な対策や強度の確認評価等が行われ、これらを併せて耐震安全性の確保が企画されているのであるから、本件原子炉施設の耐震安全性の確認において最悪のひび割れを想定するまでの必要はない。(p.216)」
「これに対し、原告らは、現実の機器・配管の状態でも、ひび割れが存在することにより本件原子炉施設の耐震安全性が確保されないと主張する。(p.216)」
「しかし、個々の施設の強度については、前述のとおり、全般的にかなりの安全裕度が採られて設計・施工されており、特に本件原子炉施設の再循環配管やシュラウドについては相当の余裕があると認められる。(p.216)」
「原告らは、ひび割れにより、より弱い地震動で機器・配管が弾性変形領域から塑性変形領域に入るようになり、その部分の揺れ方が変わるだけでなく、繋がった全体の揺れに影響してくるから、すべての機器が弾性領域において振動することを前提とした被告の耐震安全性評価によっては耐震安全性の確認がされていないことになると主張する。(p.218)」
「しかしながら、再循環配管及びシュラウド等にき裂が存在した場合でも、その剛性が低下しなければ、固有周期が長くなることはなく、機器の揺れ方はき裂が存在しない場合と変わることはないところ、再循環配管及びシュラウド等にき裂が存在することによる固有周期の変化は十分小さく、き裂の存在が再循環配管及びシュラウド等の揺れ方に影響を及ぼさないことが確認されている。(p.218)」
「原告らは、東海地震等の大地震が発生したとき、制御棒のひび割れが制御棒挿入の動作不良を引き起こし、あるいは欠損部分が制御棒挿入を阻害する事態が発生する現実的可能性があると主張する。(p.219)」
「しかしながら、前述のとおり、3号機に関しては、すでに熱中性子照射量4.0×1021n/cm2 を上回る制御棒については全挿入が実施されており、全挿入されていないハフニウム板型制御棒のサイクル末期における熱中性子照射量0.6×1021n/cm2 程度と原子力安全・保安院が提示する4.0×1021n/cm2 よりもはるかに低い値に抑制されており、これらの制御棒に関しては、すでに挿入済みであるから挿入製には問題ないものと認められる。(p.219)」
