たばこ自動販売機の成年識別ICカード「taspo(タスポ)」の普及率が5月の本格始動を前に低迷している。日本たばこ協会によると、推定喫煙人口に対する全国の普及率はわずか8%(13日現在)で、九州・山口各県でも軒並み伸び悩んでいる。導入まで秒読み段階を迎えて業界はPRに懸命だが、禁煙治療に当たる医師らはこれを機に禁煙ブームの到来を期待。互いに予期しないところで“火花”を散らしている。
タスポは、未成年者のたばこ購入阻止を目的に、同協会などが運営。3月に鹿児島、宮崎両県で先行導入され、他の九州5県と山口県は5月1日に一斉スタートする。
ところが、九州・山口の喫煙者300万人の動きは鈍く、13日現在の普及率は14.4%の43万5000人。2カ月先行した宮崎、鹿児島両県も約3割にとどまっている。
協会によると、低迷の背景にあるのは「手続きが面倒」「自販機でなくてもコンビニで買える」といった意見が多い。
個人情報の保護も懸念され、申し込みには名前や生年月日、住所、電話番号のほか顔写真も必要だが、協会には「紛失したら悪用されそう」といった声も寄せられているという。
こうした状況に、日本たばこ産業(JT)は今月10日から1カ月間、九州各地から人が集まる福岡市・天神で、タスポ用の顔写真撮影や運転免許証のコピーの無料サービスを始めるなど巻き返しに懸命だ。「自宅近くにコンビニがない」といった人たちが申し込んでいるが、それでも1日当たり30‐100人の申し込みで、全体からみれば小石を積み上げるような勧誘を続けている。
一方で「街に吸える場所が減って肩身が狭かった上、タスポで管理されるなんてこりごり」と、これを機に禁煙を誓う人もおり、福岡市健康づくりセンターで禁煙治療をしている酒井由美子医師は「禁煙志願者の増加につながるかも」と期待。
同センターによると、禁煙治療の受診者数は前年度の1カ月平均が7人だったのに対し、4月は2週間で7人を数え、その予感はあるという。
酒井医師はチャンスとみて「禁煙するならタスポは絶対に作っちゃだめ」と呼び掛けている。
=2008/04/24付 西日本新聞夕刊=