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特集ワイド:衆院補選・山口2区を歩いた 揺れる保守王国 与党の意地VS道路と医療

 ◇解散含みの自・民一騎打ち

 福田康夫政権が発足して初めての国政選挙となる衆院山口2区補選。自民、民主両党の一騎打ちとなったが、その戦況やいかに? 告示後初の週末、山口2区を歩いた。【文・遠藤拓、写真・野田武】

 政権与党の意地がかかっているのだろう。自民党新人、山本繁太郎さん(59)陣営は19日、著名人や大物が次々と投入された。目指すはひなびた感じが漂う山口東部の一角。公民館やスーパーマーケットは、自民党支持者らでごった返した。

 山本さんは前内閣官房地域活性化統合事務局長で国土交通省OB、地元柳井市出身だが知名度は低い。増田寛也総務相とタレント弁護士の丸山和也参院議員に「とにかく人柄がいい」などと持ち上げられ、マイクを握る。「今回の選挙は、山口を元気にすることができるか、できるのは誰かを選ぶ選挙」。自分のキャリアを地域のために生かしてほしい、と切々と説く。

 同郷でプロ野球巨人の元投手、宮本和知さん(44)も登場。「政治のことは分かりませんが……『ズームイン!!』でお願いします」。出演番組(日本テレビ系「ズームイン!!サタデー」)に引っかけたようだが、唐突だ。

 訪れた人々に感想を聞いたが、みな言葉を濁すばかり。ある主婦(38)がやっと口を開いた。「地方活性化の話や客寄せよりも、ガソリンや年金など、自民に不利な話をきっちり説明してほしかった」

 一方の民主党候補は比例中国からくら替えした平岡秀夫さん(54)。過去2回、選挙区で徹底したドブ板選挙で自民候補を破ったが、今回は苦戦気味だ。19日夜、野党4党の総決起集会を柳井市のホールで開いた。

 開始前、満席のホールに「若い方はお年寄りの方に席を譲って」とのアナウンス。さりげなく高齢者重視をにじませる。ステージを彩るのぼりには「チェンジ日本!」の文字。まさか、米大統領選民主党指名争いで、バラク・オバマ上院議員が連呼する「チェンジ」をまねたのか。

 まずは冒頭、平岡さんと菅直人・民主党代表代行、福島瑞穂・社民党党首、亀井久興・国民新党幹事長、田中康夫・新党日本代表ががっちりと握手。揮発油(ガソリン)税や後期高齢者(長寿)医療制度、年金と、ホットな話題が続く。

 平岡さんは大蔵官僚時代、道路特定財源の問題に気付かなかった、と反省しつつ「政権交代の道を開くために、挑戦しなくてはならない」「山口2区から日本を変える」と訴える。

 確かに、国政補選はしばしば政局を左右する。87年には、売上税反対を掲げた社会党公認候補が大勝し、法案が廃案に追い込まれた。今回も、福田首相はガソリン税の暫定税率を復活させる法改正案について、衆院で再可決する方針を示したが、大敗すれば考え直すかもしれない。一方、民主党が検討する福田首相への問責決議案提出も、結果次第では凍結することもあるだろう。

 解散含みとも言われるこうした政局の動向は気になる。でも、それだけ影響のある選挙の結果を、果たして山口2区の有権者だけに委ねていいのだろうか。何となく割り切れない思いが残るのは、私だけではないだろう。

 最初で最後の選挙サンデーを迎えた20日。JR岩国駅前のロータリーは、福田首相と公明党の太田昭宏代表見たさに、朝からごった返した。

 太田代表と選挙カーに上がった福田首相。「福田(良彦・岩国)市長は山本さんと一緒ならとても大きな仕事ができる。でも、他の人になったらどうします。市長は力を半分しか出せないですよ」。応援のようだが、ねじれ国会に苦しむ自分自身を重ね合わせたようにも聞こえる。

 そして、道路特定財源のことも。「道路も大事ですが、優先的に社会保障や教育に使う。それが一般財源化。でも、野党の方々はあんまり賛成していない。残念なんですけど、少しずつ前進すると思っています」。無難な言い回しだが、歯切れは良くない。

 とはいえさすがは一国の宰相、計3カ所の演説は、どこも押すな押すなの大盛況。何でも、現職の総理が選挙応援で山口入りするのは59年ぶりとのことで、保守層の盛り上がりようはすごい。

 「福田さん、誠実だし、かわいい」(65歳女性)、「ソフトで温かみがある」(72歳男性)。支持率の低迷など、どこ吹く風、といった様子だ。

 一方、福田首相の最後の演説から約1時間後、同じ下松(くだまつ)市で、菅民主党代表代行らが演説をした。福田首相ほどの動員力はないが、演説は絶好調だ。「族議員は役所の番犬をやっているんじゃないか。役所がパーティー券を売ってくれるのがエサ代代わり。そして、エサ代はガソリン税から出ている」

 平岡さんから主役を奪いかねないと思ったら、実は別行動だった。民主党の鳩山由紀夫幹事長らも支持者とのミニ集会を買って出るなど、総力戦だ。週末は姿を現さなかった小沢一郎代表は、23日に菅代表代行、鳩山幹事長とそろって山口入りする。

 ところで福田首相は、演説の合間に周辺自治体の首長から各種要望を受けた。その際、つい本音をポロリ。「山本さんが当選すれば、いの一番にやってくれる。ご協力お願いします」。これは、国会の党首討論で福田さんが使ったように「権力の乱用」にあたるのではないか。

 米軍再編に伴う岩国基地への空母艦載機移駐問題で国と対峙(たいじ)し、2月の出直し市長選に敗れた井原勝介・前岩国市長(57)を市内の事務所に訪ねると、「旧態依然の利益誘導選挙で市長選と同じ。首長たちにはもっと節度を持ってほしい」。

 ただ、こうした声は保守王国では少数派のようだ。むしろ、麻生太郎・自民党前幹事長がぶちまけた本音トークの方が、喝采(かっさい)を浴びる。「山口だって、岸(信介元首相)先生だ、佐藤(栄作元首相)先生だ、その時代はいい思いしたろうが。お隣の福岡でうらやましく思ってみていたよ」

 利権批判は確かに正論だが、一方でいい思いをしたい、との偽らざる本音も、確実に存在する。より有権者の心をつかむのは、自民か、民主か。そして政局への影響は……答えはもうすぐ示される。

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毎日新聞 2008年4月22日 東京夕刊

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