看護の専門性とは?

 急速な高齢化に伴って病院の機能が分化し、看護師の役割が多様化する中、厚生労働省の懇談会が未来の看護師に求められる資質や基礎教育の在り方などについて検討している。厚労省は4月24日、「看護基礎教育のあり方に関する懇談会」(座長・田中滋慶大大学院教授)の第4回会合を開き、哲学者の鷲田清一氏(国立大学法人大阪大総長)と南裕子氏(近大姫路大学長)から意見を聞いた。

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 鷲田氏は看護の専門性に多様な側面があることを指摘。「知識としての専門性は科学としての『知』か、経験がものをいう『知』か。誰もが身に付ける素質としての『知』なのか。それによって看護の専門性の意味が変わる」と問題提起した。

 鷲田氏は「知識としての専門性」という側面を重視すると、過度のプロ意識が看護師自身を追い詰めたり、患者を受け身にしたりする危険性があるとして、「看護は体で覚えるもので、経験が重要な意味を持つ」と述べた。

 その上で、「看護教育で身に付けるべき専門的な『知』は、人としての成熟性、臨機応変に対応できる能力。そういう力をどう育てていくか」と問い掛け、自然科学と人間科学が交ざり合っている看護学は、近代科学を変える可能性を秘めているとした。

 看護の専門性として「経験」を重視する鷲田氏に対し、南氏は「自然科学と人間科学を併せ持つ看護は難しい分野だが、“経験的な知”は伝わりにくく、一人ひとりが体得するもの」と述べ、専門教育の必要性を強調。「看護の水準を維持するには、大学における基礎教育が必要」とした。南氏はまた、看護を取り巻く環境の変化を国際的な視点から指摘した上で、看護職の役割拡大を求めた。

 質疑の中で、矢崎義雄委員(国立病院機構理事長)は南氏の意見に賛同。鷲田氏に対し、「患者にのめり込むのでもなく、パターナリズムでもなく、臨機応変に対応するには大変な経験が必要ではないか。看護の基礎教育で、これをどう習得させるか、重大な宿題だ」と述べた上で、「専門的な看護師が育つシステムが必要」と指摘した。

 井部俊子委員(聖路加看護大学長)は鷲田氏の意見に対し、次のように述べた。
 「鷲田先生は『科学としての看護学』という視点と、『看護の営み』という視点を提示しているが、看護の基礎教育を考える場合、看護学を学習する場と看護の営みをトレーニングする時期を融合しなくてもいい。もう少し、分けて考える視点があってもいい。人としての成熟性を重視するならば、10代で看護師になるような制度は考え直した方がよい。大学を卒業した人がナーシングスクールで看護の基礎教育を受ける方法も考えられなくはない」
 井部委員はまた、「南先生は『優しい看護師と言われると侮辱された気がする』とおっしゃったが、わたしは『白衣の天使』と言われると侮辱されている感じがする」と苦笑しながら、看護の専門性を重視する考えを示した。


更新:2008/04/28 09:04     キャリアブレイン

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