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リベリア:語られるべき体験談 −性的暴力被害者への援助−

情報発信日 2008年04月28日

image「話を聞いてもらえるのを待っていました。」と15才の少女サラはルシア・ケウィリアムに言った。話を聞くのはケウィリアムの仕事の一部である。サラのように体験を語る機会を得られる被害者はほんの一握りである。

ケウィリアムは、リベリアの首都モンロビアにあるベンソン病院の婦人科施設で国境なき医師団(MSF)のスタッフとして働いている。病院が面する道路から奥まった、石垣を隔てた所にある小さな診療所の建物の中で、彼女は性的暴力の被害者に医療ケアを提供している。リベリア国内でこのケアを受けられる場所はここを含めて4ヵ所しかない。

ケウィリアムが診療所に到着した時、サラは母親と一緒に診療所の外にあるベンチに座っていた。母親を待合室に残し、診療所内の個室で、サラはケウィリアムに自分の身に起きたことを語った。

その前夜、サラは夕食用の鉢を取りに自宅の一室に入った。そこには彼女の友人の友人がいて、売春をしないかと無礼な提案をしてきた。サラが断ると、おそらく10代半ばのその青年は、彼女を平手打ちし、ベッドに投げ倒し、服を引き裂き、レイプした。

「元気になれる薬をいただけますか。」とサラは聞いた。ケウィリアムは彼女に対して心身の健康を保つ手助けとなる治療を必ず提供すると約束した。

性的暴力の被害者に対しては、明確な手順に沿った治療を提供することが質の高い医療ケアにつながる。サラのような被害者が診療所を訪れた場合には、ケウィリアムのようなMSFの研修を受けたスタッフが、世界保健機関(WHO)が定めた手順に従って性的暴力に対する包括的ケアを無料で提供している。

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ベンソン病院の外観

まず被害者の詳しい健康診断を行い、綿密な所見に基づき最大で7種類の治療を提供する。その一環としてHIVなどの性感染症に対する治療や予防、緊急避妊薬や予防接種を行う場合もある。心理社会的支援も治療の不可欠な要素となっており、性的暴力カウンセラーが必要に応じて、診療所または被害者の自宅で経過観察の面談を行う。

サラの話を聞き終えると、ケウィリアムは彼女に母親を呼んでくるようにと言い、3人はこれからサラが受ける治療について話し合った。その治療にはHIV感染のリスクに晒された後の予防措置(暴露後予防)も含まれていた。ケウィリアムは、加害者がエイズに感染していたかどうかは不明だが、サラの身を守るために診療所としてはこの措置を行いたいと説明した。

現在、性的暴力の被害者に質の高い医療ケアを提供している施設は、すべてMSFが支援している。リベリアでの14年にわたる残虐な内戦に終止符を打った和平協定の締結から5年が過ぎた。リベリアは戦後の過渡期にあり、MSFはいくつかのプログラムを終了し、残りのプログラムを他の組織に引き継いでリベリアを後にすることを計画しているが、医療スタッフは性的暴力の被害者にこの不可欠な医療ケアを今後誰が提供することになるのかと懸念している。

2003年から2007年にかけて、合計6494人の男性、女性、そして子どもがレイプの被害によりMSFの施設を利用した。2007年には、被害者の72%が18才未満であり、そのうち42%は5才から12才の子どもであった。

ケウィリアムは、現在自分が命を救う仕事を担っていると考えている。彼女は語る。「性的暴力は心に大きな傷を残します。私はこの仕事に打ち込んでいます。」MSFが年内にこの診療所の業務を他の場所にある保健省の施設に引き継ぐ際、ケウィリアムや研修を受けた他のスタッフは、患者たちが引き続き質の高いケアを受けられるよう、この業務を行う現地のNGOで働く予定である。

しかし、人口300万以上のリベリアで、医療ケアを受けられる場所が国内に4ヵ所だけでは十分とはいえない。適切な医療ツールと研修を受けたスタッフを配置した医療施設を増設し、被害者が別の緊急医療を必要とする場合に訪れる施設で、同時に性的暴力の治療も受けられる体制を整えるべきである。

当面の間、ケウィリアムはMSFの診療所でサラなどの被害者の治療を続ける。彼女たちの話に耳を傾けることも含めて。