まぶたのへりにぷつっとできる小さなできもので、むずむずしてかゆいが、やがて自然になおる。戦前は誰もが経験したものだが、近ごろはあまりかからなくなった。
この眼病に関しては、「三軒の家から米をもらって食べるとなおる」(福島県東白河郡)、「ざるを持って隣近所五軒から穀物をもらって歩くとなおる。その時橋を渡ってはいけない」(神奈川県箱根町)などのように、他人から何か品物をもらうと治癒するという俗信が各地に見られる。モノモライという名称はこの俗信に由来するものであり、メコジキ、ホイト、メボイト、(メ)カンジンなどの呼称も、「食べ物をもらい歩く人」すなわち「乞食」(こじき)と関係のあることばである。「乞食」は本来「こつじき」、すなわち、僧が修行のため人家の門に立って食を乞い求める「托鉢」のこと、ホイトは「陪堂」(ほいとう)、カンジンは「勧進」に由来し、いずれも仏教用語が各地で乞食を意味する方言に転じたものである。
宮城県のバカや九州のインノクソ(犬の糞)はタブーによる命名で、「ものもらい」の名を口にすることを恐れ、わざと汚いことばにして遠ざけようとしたものかと思われる。オヒメサンはインノクソを逆方向に言い替えた(美化した)ものであろう。
東北北部のヨノメは「いをのめ」(魚の目)と関係があるかもしれない。ノメ(ノンメ)はヨノメの省略形であろう。大阪付近のメバチコや新潟のメッパツの語源は不明であるが、あるいは「目をぱちぱちする」ことと関係がないだろうか。栃木・群馬付近のメカ(イ)ゴは「ざる」の一種であり、ざるをかぶるとものもらいができるとか、ざるを井戸に半分見せるとなおるとかいう俗信と関係がある。