福田政権への強い警告だ。衆参ねじれ下で初の国政選となった衆院山口2区補選で民主党が勝利した。政府・与党は「直近の民意」に率直に耳を傾けよ。さもなければ、政権はいよいよ行き詰まる。
いつになく注目度の高い補選だった。先月末に期限が切れたガソリン税の暫定税率問題、今月スタートした後期高齢者医療制度…。与野党総力戦の一騎打ちを制したのは民主党前衆院議員だった。接戦の予想を大きく覆しての勝利。二割台の内閣支持率に苦しむ福田康夫首相への打撃は計り知れない。政権運営を続けるには相当なエネルギーが必要となろう。
自民党は当初、争点ぼかしの戦法を取った。国土交通省出身の元官僚を擁立し地域活性化を前面に打ち出した。建設業界などの組織戦を徹底。米海兵隊岩国基地での民間空港再開も持ち出して、地元への利益誘導をアピールした。
しかし、こうした旧来型の戦術は“大票田”である無党派層には通じなかった。関心が高いガソリン税や医療問題での有権者の反発を読み間違えた。特に告示日と同時に年金からの保険料天引きが始まった高齢者医療制度に対する「静かなる怒り」に鈍感すぎた。制度不信の明確な意思表示だ。抜本的見直しを急ぐべきだ。
一方、民主党は政権批判の追い風を受けて勝った。街頭で有権者の反応は必ずしも芳しくなかったが、結果的には民意を引き寄せたことで、今後国会に臨むにあたって攻勢に弾みをつけるだろう。
与党は暫定税率復活を含む租税特別措置法改正案を三十日、道路特定財源を十年間維持する法案を五月十二日以降に衆院で再可決する方針だ。民主党が首相問責決議案を参院に出すかどうかが最大の焦点となる。ただ、問責決議案には法的拘束力はなく、首相は無視する構えだ。長期審議拒否につながりかねないカードだけに民主党は慎重な判断が迫られる。
与党は考えどころだ。再可決に異を唱える民意が示された。それを無視して衆院三分の二の「数の力」を行使しようとするのは乱暴ではないか。自民党内には特定財源維持法案の再可決に慎重論がくすぶる。造反を口にする議員もいる。加えて、二度の再可決は内閣支持率のさらなる低下を招く。その覚悟はあるのか。
補選は三百小選挙区の一つにすぎないとして突っ走るなら、早急に国民の「総意」を問う機会をつくるのが筋ではないか。
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