◎工事の分割発注 談合誘発する危うさ認識を
滑川市発注の下水道工事談合事件で、富山県警は新たに三工区で談合を行っていたとし
て十六社の役員らを書類送検した。すでに逮捕済みの建設業者も含め、同市内で下水道工事を手掛ける十八社のうち十七社が摘発されたことになる。市内の下水道工事は業者間で落札者を振り分けていたとみられ、そうした業界ぐるみの談合に市は本当に気づいていなかったのだろうか。
この事件で鮮明に浮かび上がってきたのは、談合を誘発しやすい工事の分割発注の危う
さである。自治体は地元中小企業の受注機会の拡大を理由に工事を分割して発注する傾向がみられるが、その典型である下水道事業で談合摘発や談合情報が相次いでいるのは発注の仕組み自体と無関係ではないだろう。
志賀町で一昨年起きた排水管敷設工事をめぐる談合事件も同様の構図であり、全国では
発注者側の恣意的な分割発注が刑事事件に発展するケースもある。各自治体は分割発注が談合を誘発しやすいことを認識し、他の工事以上に防止策を徹底してほしい。
工事の分割発注は、一つの工事を複数の工区に細分化したり、施工期間で分けるケース
などがある。自治体側は利点として工期の短縮などを強調するが、その一方でコスト高になりやすいことも指摘されている。同種工事を細分化して発注すれば、それだけで受注調整しやすい環境が整うことになる。滑川市の事件のように指名競争入札であればなおさらである。
本来なら一括発注でいいような工事まで無理に分割するのは、いくら地元業者育成とは
いえ、行き過ぎた保護策ではなかろうか。分割発注の在り方についても、住民に不信感を抱かれないよう透明性を高める必要がある。
滑川市では十七社が摘発されたことで、今年度の下水道工事や他の事業の進捗を危ぶむ
声が出ているが、だからといって罰則を緩和することは避けてほしい。そうした結果を招いた責任は当然、市にもある。発注者側がここで抜本的な対策を示さない限り、根深い談合の土壌は容易にはなくならないだろう。
◎日ロ首脳会談 領土の「並行協議」も一案
福田康夫首相とプーチン大統領、メドベージェフ次期大統領との日ロ首脳会談は、個人
的な信頼関係の構築と北海道洞爺湖サミットの地ならしに重きが置かれ、懸案の北方領土問題は福田内閣としてスタートラインに着いたにすぎない。解決の手がかりを得る努力はこれからだが、そのためにまず必要なのは、過去の日ロ首脳会談の合意文書をいま一度確認することではないか。
これまで積み重ねられた首脳同士の約束事をほごにせず、実行の意思を再確認すること
は、ある意味では新たな合意文書を作成する以上の意義がある。特に一九九三年の「東京宣言」と、二〇〇一年の「イルクーツク声明」に立ち返ることが重要と思われる。
プーチン大統領と当時の森喜朗首相との会談で発表されたイルクーツク声明は、平和条
約締結後に歯舞諸島・色丹島を返還するとした一九五六年の日ソ共同宣言の有効性を認め、さらに九三年の東京宣言に基づいて四島の帰属問題を解決し、平和条約交渉を促進することを確認している。
外務省内では、この声明を基に「歯舞・色丹の返還条件」と「国後・択捉の帰属問題」
を並行協議する方式で交渉を再開することが検討されている。領土の帰属問題解決と平和条約締結の歩みを前進させる現実的な一案といえる。プーチン氏も声明の当事者として、並行協議方式の交渉を拒否しにくいだろう。
また、当時の細川護煕首相とエリツィン大統領による東京宣言は、「法と正義」の原則
に基づいて問題を処理するとした上で▽自由、民主主義、法の支配および基本的人権の尊重という普遍的価値の共有▽市場経済および自由貿易の促進が両国経済の繁栄に寄与することを想起する、などの重要な理念や原則をうたっている。
しかし、大国として復活した今のロシアは、この東京宣言にそぐわぬ強権的な一面が散
見される。日ロ間の当面の課題は経済協力の強化であるが、それを具体化して高次元の関係を築く上でも、東京宣言の精神が大事なことをロシア側は認識してもらいたい。