決算発表の季節である。金融混乱や原燃料高の影響で減益や赤字決算が目につく。株式市場も低空飛行が続き、日本企業と経済の先行きを心配する向きは少なくない。
大学時代、授業の一環で京都の老舗を何軒も訪ね、歴史などを直接聞き取り調査した。江戸時代から続く金箔(きんぱく)細工の店で、不況の時に菓子を包む銀紙を作ってしのいだ苦労話を聞いたことを覚えている。
老舗企業を紹介した「千年、働いてきました」(野村進著)に同じ話が出てきた。やはり京都の金箔細工会社で、こちらはたばこの銀紙だそうだ。この会社は技術を発展させ今は携帯電話の開閉部分に不可欠の銅箔で世界的シェアを誇る。
石川県の企業は金箔の技から熱転写の技術を生み、奈良県の会社は墨作りの延長で今は融雪剤も製造する。岡山県に縁の深いDOWAホールディングスも出てくる。不純物の多い銅鉱石の製錬で培った技術で、都市鉱山と呼ばれる廃家電などから希少金属を取り出す。
歴代社員のたゆまぬ研究や工夫、しぶとさが企業を支えてきた。本書に登場する老舗製造業だけでなく、新旧を問わずあらゆる業種で企業人は日々努力を重ねている。
新聞の経済面から、彼らの息吹が伝わってくる。一時的にへこむことはあっても、苦境がバネになることもある。