2008年04月18日 永沢徹(弁護士)
「Jパワー問題」が象徴する、経産省官僚の外資アレルギー
4月16日(水)、日本政府は英国の投資ファンド「ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)」に対し、Jパワー(電源開発)株の買い増しの中止勧告を出した。外為法に基づく政府の中止勧告は、今回が始めてとなる。
現在、TCIはJパワー株の9.9%を保有している筆頭株主だが、外為法に基づき、20%までの買い増しをすることを政府に申請していた。それを受けた関税・外国為替等審議会(外為審)の外資特別部会は「公の秩序の維持が妨げられる恐れがある」との意見書を出し、それをもとに政府は中止勧告に踏み切ったわけである。
「不測の影響」「可能性」
とは一体何?
これは手続きとしては、外為法に基づいて買い増しを認めるかどうかという判断を政府側がしたわけなので、手続き自体に問題があるわけではない。しかし今回、審議会の意見書には「外資が買い増した場合、送電線など電力の基幹設備の計画/運用/維持や原子力政策の実施に不測の影響が及ぶ可能性を否定できない」「外資が投資することによって公の秩序の維持が妨げられる恐れがある」とある。果たしてこれらは、どういう事実に基づいているのかよくわからない。
「公の秩序の維持が妨げられる恐れ」というのはまさに要件であり、国の安全や公の秩序に関わる企業の株の10%以上を取得する場合に事前申請を義務付けるというものなので、どういう公の秩序の維持が妨げられるのか、どういう影響が出るのかということが必要になってくる。「電力の基幹設備の計画/運用/維持や原子力政策の実施に不測の影響が及ぶ“可能性”を否定できない」とあるが、「可能性」とは何なのか? 普通、どんな状況でもすべて「可能性」は否定できないものである。
TCI自体はグリーンメーラーのような酷いファンドではない。企業価値向上が見込める企業に長期投資することを投資哲学としており、全世界で1兆円以上の資産を運用している。また、運用資産の一部を「ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド財団」という、アフリカなどの恵まれない子供たちへの慈善事業を行なう団体に毎年かなりの金額を寄付しており、社会貢献活動にも積極的なファンドである。
市場の腑に落ちる説明を
一般論としては、TCIが株主であることが企業価値を毀損したり、政策の維持に影響を及ぼすことにはならないだろう。またTCIは、追加取得する株式を第三者に信託し、原発や送電線設備に関わる決議については議決権を行使しないという提案もしている。そういう意味では、それでも不測の影響が及ぶ可能性が否定できないのだろうか――。しかし審議会はそれに対して何も答えておらず、意見書に説得力はない。なぜ外資が一定割合株を保有すると、不測の事態が生じるのだろうか?
審議会が行なった記者会見で、吉野部会長(慶応大学教授)は「TCIの投資姿勢を問題視した」と説明している。「3~5年の期間でJパワーに投資したいというTCIの発言が、長期投資を必要とする原発や送電線の整備にそぐわない」というのである。そもそも、投資する側が想定する投資期間と、投資される側がどういうビジョンで事業を行なうかは別問題である。
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永沢徹
(弁護士)
1959年栃木県生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験合格。卒業後の84年、弁護士登録。95年、永沢法律事務所(現永沢総合法律事務所)を設立。M&Aのエキスパートとして数多くの案件に関わる。著書は「大買収時代」(光文社)など多数。
弁護士・永沢徹が、日々ニュースを賑わす企業買収・統合再編など、企業を取り巻く激動を、M&A専門家の立場からわかりやすく解説していく。