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「幻の駅」膨らむ代償 新幹線新駅の中止から半年 滋賀

2008年04月27日12時10分

 「もったいない」を掲げた嘉田由紀子・滋賀県知事が06年7月の知事選で当選し、昨秋に中止が決まった同県栗東市の新幹線新駅。これに伴い、「新都心」を当て込んだ駅前の土地区画整理事業も中断となり、土地を取得した市には財政負担がのしかかっている。県側もその後、明確な打開策を打ち出せておらず、展望のない状況に、200人を超す地権者はいらだちを募らせている。

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新幹線の新駅建設が中止された予定地周辺=26日午後、滋賀県栗東市、本社ヘリから、高橋一徳撮影

 ■債務残高114億円

 「不良物件と言わざるを得ない。融資は無理です」

 3月下旬、京都市内の銀行を訪れた栗東市の幹部に対し、銀行役員は言い放った。市に代わって新駅周辺の土地を先行取得した市土地開発公社が短期で借りた土地代金の一部(35億円)の借り換え期限が月末に迫っていた。「これほど厳しいとは」。半月で十数行を回った市幹部の表情がゆがむ。返済には、銀行から別に一時借り入れして補正予算を組み対応した。

 同市は新駅建設を前提に、03年から「栗東新都心」と名づけた土地区画整理事業に乗り出した。約50ヘクタールに企業や住宅などを呼び込む構想だった。同公社は03年度までの10年間で、うち5ヘクタールを約75億円で先行取得。しかし、新駅中止で期待された固定資産税などの市税は見込めず、地権者の移転補償費や年2億円の金利などを含めると、3月末の同事業の債務残高は114億円に膨らんだ。

 栗東市の人口は約6万4千人。企業からの税収に恵まれ地方交付税の不交付団体だが、06年度決算での市債残高は663億円で、財政規模の約3倍。一方で、財政調整基金の残高はわずか3億5千万円。そこに公社が先行取得した土地の買い戻しや、金利負担、地権者への耕作補償費などがのしかかる。市は今年2月、新駅中止の影響額は08年度当初予算ベースで約8億5千万円と発表した。公社などとの連結決算を求める自治体財政健全化法が導入され、市は不安を募らせる。

 ■「塩漬け」怒る地権者

 地権者がいる地元4自治会の一つ、下鈎甲(しもまがりこう)自治会の代表ら4人は23日、知事室を訪れ嘉田知事に詰め寄った。「土地を塩漬けにしたまま、いつまで放っておくのか」。区画整理事業の取り消しなどを求める申入書を手渡す代表に、嘉田知事は「出来るだけ速やかに対応します」「補償などは栗東市の対策を支援する」と答えるにとどまった。

 予定地は知事選以降、凍結され、駅前広場に接続するはずだった都市計画道路が30メートルほどで途切れている。計画地の約半分が、市街化調整区域から市街化区域に編入され、固定資産税も毎年じわじわと上がっている。

 県側は「一日も早い事態収拾を図る」とする一方で、「事業主体はあくまで栗東市」との立場を崩していない。地権者は238人に上り、予定地の今後については推進や、農地に戻すことを求める声など地権者の間でも意見が分かれる。調整は難航が予想される。事業の後処理には多額の費用が不可欠で、こうした支出に県民の理解が得られるかどうかは不透明だ。

 地権者側は中止が決まる前から「新駅に代わる有効な土地利用策と経済振興策を示してほしい」と嘉田知事に求めてきた。その方策を練る協議会を県と市が立ち上げたのは新駅中止決定から5カ月たった3月下旬。具体的な打開策は今も見えない。栗東市の国松正一市長は「知事が建設中止の政治決断をした以上、前面に出て最後まで面倒をみるのが当然の義務」としている。(安田琢典、日比野容子)

     ◇

 〈滋賀県栗東市の新幹線新駅(仮称・南びわ湖駅)建設事業〉 2012年度の開業を目指し、06年5月、JR東海道新幹線の滋賀県栗東市で着工した。地元がJRに建設を要望した「請願駅」で、事業費250億円のうち同市などが約240億円を負担する予定だった。県や同市などは昨年4月にJR東海と、同10月末までに推進か中止かを決める覚書を締結したが、県と、同市や周辺5市の意見は対立したまま、結論が出ず中止となった。

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