アフリカには二つの顔があります。古くからの「貧困」と新たな「成長」です。成長への転換を目指す各国の努力へ日本独自の後押しができませんか。
アフリカ西海岸のコートジボワールは、チョコレートの原料、カカオ豆の世界最大の輸出国です。
同国の密林の村を訪れたカナダ人ジャーナリストが「チョコレートの真実」(キャロル・オフ著、英治出版)の中でカカオ農園で出会った子供たちの姿を描いています。彼らは自分たちが育てた豆から何が作られるのか知りません。チョコレートが何であるのかも。
チョコを知らない子供
「私の国には学校へ向かいながらチョコレートをかじる子供がいて、ここには学校も行けず、生きるために働かなければならない子供がいる」
コートジボワールのカカオ生産はマリなど近隣諸国からの移民労働に支えられてきました。ところが価格低迷で賃金さえ払えなくなり、復活したのが子供の人身売買と奴隷労働だったといいます。
カカオ産業を牛耳っているのは巨大食品企業と腐敗した政府、武装勢力、農園経営者であり、「今も子供たちは狙われ、酷使されている」と著者は告発します。
アフリカは、まだまだ「貧困の大陸」なのでしょうか。けさ(二十七日)の本紙サンデー版の大図解「変わるアフリカ」を見てください。世界で最も貧しく、重い借金を背負っていると世界銀行などが認定した重債務貧困国(二〇〇七年)は、五十三カ国のうち三十三カ国に及んでいます。
チョコレートを作る側と、食べる側との間の深い裂け目。日本との間にもある、よく似た溝の広がりを実感したことがあります。
飢えと内戦で荒廃したソマリアでの取材です。一九九二年暮れ、無政府状態の国に食料と秩序をもたらそうと、米軍など多国籍軍が希望回復作戦を展開しました。
日本の姿が見えぬ援助
痛感したのは、日本という国の「遠さ」「軽さ」です。日本はよく知っています。でもそれは、街を走る車やカメラやパソコンといった日本製品なのです。
よく「中国人」に間違えられました。「いや、日本人だ」と答えると、驚いた表情で言いました。
「立派な車や製品をつくる日本人はアメリカ人とそっくりだと思っていたよ」
日本人を実際に見たことがないのです。当時、ソマリアに対する日本の援助は世界トップ級と聞きました。国連機関などによる食料や医療援助を資金面で支えたのですが、日本の姿は隠れています。
自国の国旗を掲げて支援活動に汗を流す北欧などの非政府組織(NGO)とは対照的でした。カネやモノだけではなく、ヒトの貢献も重要なのです。
ソマリアは無政府状態が続き、イスラム過激派たちのテロの温床にもなっています。地域紛争、飢餓、難民、エイズ、水不足。「貧困」がかつての「暗黒大陸」をもたらしたかのようです。
グローバル化、市場主義経済の陰の部分がアフリカに集中したのです。最近のコメや小麦など穀物価格の急騰も、暴動の多発など深刻な打撃を与え始めています。
一方、時の経過とともにアフリカに明るい変化も生まれました。「成長」です。多くの国が年5%を超す経済成長を遂げました。石油・天然ガス、鉱物資源に恵まれた国が目立ちますが、地域の平和と安定こそが成長に不可欠の条件なのです。
来月、横浜市で開かれる第四回アフリカ開発会議(TICAD)と七月の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)を世界は注目しています。議長国日本のアフリカ支援策に期待しているからです。
かつて十年連続世界一を誇った政府開発援助(ODA)は財政難を理由に毎年削減され、昨年は五位に転落しました。でも財政事情の厳しさは同じでも欧米諸国はアフリカ支援を拡大しています。
21世紀の外交の試金石
二〇〇一年一月に日本の首相として初めてアフリカを公式訪問した森喜朗氏は「アフリカは二十一世紀日本外交の試金石」であり、「アフリカの平和なくして世界の平和なし」と語りました。
政府としてその決意は今でも変わりないはずです。具体的な貢献策は、自給自足するための農業技術の指導、学校建設など教育、人材育成の手助け、民間投資を促進する道路や橋、水道の整備などたくさんあります。地球規模の気象変動対策と成長の両立という難題にも取り組まねばなりません。
アフリカの全人口のほぼ半数が十四歳未満の子供たちです。明日の地域づくりを担う彼らに、チョコレートの味はもちろんのこと、日本の国や日本人の顔も覚えてほしいものです。
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