ニュース: スポーツ RSS feed
【主張】長野聖火リレー まるで中国の“五輪独占”
3000人以上もの警察官が動員された北京五輪の長野聖火リレーは、小さな妨害行為はあったものの、予定通りの18・7キロを4時間かけて走った。聖火は次のソウルに引き継がれた。
ではあるが、誰もが「よかった」と思ったかどうか。答えは、否だろう。
長野県警を中心とする大がかりな警備シフトは、聖火を守り、混乱を最小限に食い止めた点では、評価されてよい。これまでのいくつかの聖火リレー都市で問題視された中国側の聖火随行員の動きも封じ、「警備は日本警察が行う」との主権の鉄則も守った。
しかし、地元の長野市民らは聖火の出発地点には立ち入れず、ロープやさくで仕切られた沿道から「聖火護送」のようなリレーを見守るしかなかった。何のための聖火リレーなのか。国際オリンピック委員会(IOC)は重い課題を背負った。
その沿道には五星紅旗が林立した。長野に集結した中国人留学生らは当初予想の倍近くの約4000人にもふくれあがり、「北京がんばれ」の叫びは、中国政府の人権抑圧を訴える亡命チベット人や「国境なき記者団」など活動家を数で圧倒した。
留学生らの言動はおおむね、中国政府が内向けに力説する「愛国主義の理性化」に忠実だった。問題は、聖火を独占するかのような集団行動である。あれでは共感は呼ばない。
長野聖火リレーの前日、中国政府は国営新華社通信を通じ、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世側と数日中に接触する、と発表した。3月のチベット騒乱以来、ダライ・ラマを「騒乱の策動者」と決めつけ、日米や欧州が求めるダライ・ラマ側との対話を事実上はねつけてきた中国側が初めて見せた変化ではある。
ただ、長野での五輪イベントに合わせて国際社会に柔軟姿勢をアピールしようとした中国側の計算もうかがえる。胡錦濤政権のチベット問題への今後の対応を注視しなければならない。
長野聖火リレーの出発式で掲げられていた北京五輪組織委員会の旗には「情熱を燃やせ、夢を分かち合おう」とあった。
だが、チベットの人権を置き去りにして、五輪の夢は共有できない。これを長野にやってきた中国人留学生たちへのメッセージとしたい。