北京五輪の聖火リレーが26日、厳戒下の長野で行われた。中国政府は前日、ダライ・ラマ14世側との対話を再開する意向を表明したが、沿道では「チベットに自由を」と訴える声が飛び交った。対話をチベットの人権状況の改善と国民和解につなげるための道のりは遠い。
10年前に冬季五輪を開いた長野市は、中国の国旗とチベットを象徴する「雪山獅子旗」が林立し、喧噪(けんそう)と怒号に包まれた。
「中国、加油(がんばれ)」と叫ぶ中国人留学生。数は劣勢だが「フリーチベット」を連呼する活動家たち。対立は冷たい雨のなかで熱を帯び小競り合いで負傷者も出た。
沿道に飾られた歓迎のプランターは撤去された。5月6日の胡錦濤国家主席来日を前に不測の事態は許されない。約3000人の警察官が動員された。厳戒態勢のなかを聖火は警官の盾に守られひたすら通過した。
第一走者に起用された五輪野球代表監督の星野仙一さんを除けば、ランナーがどこをどう走っているのか、市民は見当もつかなかった。
中国政府がダライ・ラマの個人的な代表と接触する用意があると発表したのは、国際的な圧力への一定の譲歩といえる。日米両国政府や欧州委員会には事前に伝えており、圧力をかわそうとの狙いは鮮明だ。特に日本政府には真っ先に伝え、長野のリレーと胡主席訪日に向け環境を整えたいとの意欲を示した。
ただ、対話再開は「第一歩」にすぎず、チベット問題を解決する展望が開けたとは言い難い。過去6回の接触では実質的進展はなかった。
3月のチベット騒乱について中国政府は国際的な調査団の受け入れを拒んでいる。外国人観光客の受け入れを停止したまま僧侶らの逮捕を進めている。中国政府は現地の実情を明らかにしていくべきだ。対話自体にも透明性が必要になる。
「ハッピーな気分で終わりたかったのに」。長野のリレーに参加したタレントの萩本欽一さんは悔しさをにじませた。異様な聖火リレーは五輪を取り巻く環境の厳しさを改めて映し出した。対話再開の発表が国際世論を意識したポーズにとどまるようであれば、ほぼ100日後に迫った五輪の成功は望めない。