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社説1 日本の中小企業を元気にするために(4/27)

 日本の中小企業が試練の季節を迎えている。経済産業省の2008年版中小企業白書によると、中小企業の業況判断は過去2年間、悪化の一途をたどっているという。

 理由の一つは石油などの原料高だ。原材料の仕入れ価格が上がっても、製品価格への転嫁が難しく、収益が圧迫される。倒産がじわじわ増えているのも、気掛かりな傾向だ。

 全国に430万社ある中小企業は、日本経済を下から支える存在だ。一握りの大企業の業績が好調でも、430万社に元気がなければ、経済は沈滞する。中小企業の活性化はきわめて重要な課題である。

 モノづくり系の中小企業にとって、進むべき方向は技術開発力の強化だ。ニッチ(すき間)分野に狙いを定め、そこでトップをめざす。そんな志の高い企業が多数登場すれば、「大企業の下請けで、低賃金」というイメージも変わるだろう。

 社員約100人のヱビナ電化工業(東京・大田)は、めっきの世界では名の知れた存在だ。先端的なめっき技術は、例えば燃料電池の開発にも欠かせず、自動車大手の技術者が頻繁に同社を訪ねるという。

 自ら技術部長を兼ねる海老名信緒社長は「景気悪化は逆にチャンス」と指摘する。大企業が採用を絞る不況期は、質の高い人材が中小企業の門をたたくからだ。

 ヱビナ電化は平凡な町工場だったが、以前の円高で仕事が急減し、技術志向にかじを切った。経営者にビジョンと意志があれば、規模は小さくても活路は開ける。IT(情報技術)化した今の時代は、中小企業でもグローバルに情報発信し、海外企業と取引することも難しくない。

 サービス分野で注目されるのは、高齢者向けの日用品の宅配や託児所、子育て支援などソーシャルビジネス(社会事業)の分野だ。

 英国では小さな政府を補完する存在として、社会事業の市場規模が年間5兆円に達したという。日本でもこの分野の需要は大きい。ソーシャル事業をうまく取り込めば、沈滞する地方の商店街が魅力を取り戻す切り札になるのではないか。

 環境は厳しいが、悲観するばかりが能ではない。経営革新に取り組めば、小粒な企業でも成長性や社会的な存在感を確保できる。

 中小企業行政のあり方も見直す時だ。窮地に陥った企業への緊急融資など「弱きを助ける」だけでなく、新しいことに挑戦する企業を応援し、伸ばす仕組みが必要だ。元気な中小企業は、活力ある日本経済を実現する上で不可欠の存在である。

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