大阪市住吉区で04年2月、大阪地裁所長が若者グループに襲われ重傷を負った事件で、被害者の鳥越健治氏(65)が毎日新聞の取材に応じた。この事件では、逮捕・補導された5人のうち、成人2被告が1審で無罪となり、17日に大阪高裁で控訴審判決が言い渡される。少年2人も大阪家裁で無罪に相当する「不処分」の決定が出ているが、鳥越氏は「結果がどうであれ、(判決を)謙虚に淡々と受け入れる」と語った。
一方で、自らが当事者となった事件の審理が異例の経緯をたどっている点については、難事件を裁く後輩の判事を気遣い、「後輩に迷惑をかけて申し訳ないと思っている」と、元裁判官としての複雑な心境をにじませた。
鳥越氏は大阪地裁所長の後、広島高裁長官を務め、07年5月に退官した。事件で腰の骨を折る重傷を負ったが回復し、現在、関西大法科大学院で教べんを執る。「体が持ち直し、仕事に専念できるのがうれしい」と言う。
04年2月16日夜、官舎への帰路を襲われた。関係者によると、普段は公用車を使っていたが、この日は「運転手さんを遅くまで待たせるのは悪い」と思い、徒歩だった。恐怖感もあり、犯人グループの顔は、はっきり覚えていない。「記憶していれば……」。自責とも取れる言葉を周囲に漏らすこともあったが、「今は思い出すのも嫌」だという。
事件から4年。少年2人を含む4人の裁判は無罪と有罪の間で二転三転し、今も続く。こうした展開について「元裁判官の私が言うと差し支えがあるから、黙っているのが一番」としつつも、「難しい事件なんだなと思っている」と語った。また「皆、精いっぱいやったうえで判断しているのだから、結果がどうなったら困るという気持ちは一切ない」と話した。
大阪地裁で04年12月、「真犯人にはきちんと責任を取ってほしい」と証言した鳥越氏。「今もそう思っている」と心境を語った。【川辺康広、北川仁士】
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■ことば
04年2月16日夜、大阪市住吉区の路上で発生。鳥越所長(当時)が襲われ現金約6万3000円が奪われた。所長は腰の骨を折る重傷を負った。大阪府警は見張り役を含め5人組の犯行と断定。当時29~13歳の5人(成人2人、少年3人)を逮捕・補導した。5人全員が無罪を主張している。
成人2人は大阪地裁で無罪(06年3月)とされた。当時16歳の少年は大阪家裁が「保護処分の取り消し」(刑事裁判の再審無罪に相当)を決定したが、抗告審で審理中。当時14歳の少年は、家裁で「不処分」(刑事裁判の無罪に相当)にされたが今年3月、大阪高裁が家裁に審理を差し戻し、弁護団が不服として最高裁に再抗告を申し立てた。
当時13歳の少年は児童自立支援施設での収容を終えたが、「自白を強要された」と国などに賠償を求め提訴している。
毎日新聞 2008年4月9日 大阪夕刊