Fate 28
―――歳月を経て使い込まれ、深みと落ち着いた輝きを増した美しい絨毯の上で、
いつになく落ち着かない藤也は、緊張をあらわにしながら、差し出された砂糖がたっぷり入った甘い紅茶を啜っていた。
カナールの離宮に着いた途端、姿を消したユリアスは、一向に戻る気配すらなかった。
ファティマが言うには、砂漠で会ったワディラムと言う人と雑談をしているらしいけど……。
そのファティマも、なかなか戻らないユリアスの様子を見てくると行って部屋を出たまま、帰ってこないのだ。
なにより、ここへ来る前の、明らかにおかしかったユリアスとファティマの二人の様子が
頭の隅に引っかかってしまい、俺はお気に入りのウサギのルビーと戯れていても、全然楽しくなれずにいた。
そんな俺の前に、突然二人の女性が現れたのだ。
四、五〇代ぐらいの落ち着いた雰囲気の、繊麗な彼女の名前はユリアナと言うらしい。
華美ではないけれど、上質で清楚な出で立ちが、彼女の美しさをさらに際立たせているようだ。
そのユリアナが纏う気稟は、どことなく凛として気高く、明らかに高貴な身分であることが伺える。
上品な物腰で優雅に一礼をした彼女は、
穏やかな笑みを浮かべながら、ドレスの裾を掴んで少し持ち上げると、おもむろに俺の前に座り込む。
とても華やかで、けれどやさしい表情の彼女の微笑みは、
何故かユリアスのはにかんだ時の顔と少し重なって見えるのは気の所為だろうか。
傍らに控えていた、もう一人の女性もそこはかとなく気品を漂わせている。
その彼女が、手馴れた手つきでグラスに温かい紅茶を注ぎ入れ、
どうぞ……と、これまた引き込まれるような温かい微笑を零しながら差し出してきたのだ。
どうしてこの世界には、こんなにも美しい人が多いのかと、度胆を抜かずにはいられない。
「こんなにも可愛らしい方を、一人で待たせるなんて……」
少し呆れたような、そして諦めたようなムードを醸し出しながら、
「退屈でしょう?」
と、鈴を転がすような声音で話しかけてきた彼女たちと、俺はたわいの無い話をすることになった。
その横で、かじっていた人参でお腹がいっぱいになったらしいルビーが、ピョコンピョコンと跳ねている。
そうして……どのくらいの間、彼女達と時間をつぶしていたのだろうか。
ざわざわと廊下の方が慌しくなり、手にしたグラスを置いて近寄る足音に視線を向ければ、
つい先ほどまで、近くにいたはずのルビーを捕らえたユリアスが、そこにいた。
「すまぬ、思ったより時間がかかってしまった」
待ち望んでいた存在に、俺の心は一様に明るくなる。
「もう、終わったの?」
嬉々とした声で問われたユリアスは、
「ああ」
と、一言答えると、手にしたルビーを、後から着いて戻ってきたファティマに手渡した。
すぐさま、室内にいるユリアナ達に気づいたファティマは、頭を伏して拝礼し、一方の彼女達も瞬時に席を空け離すとユリアスに一礼する。
気がつけば、その様子を呆然としたように見つめている俺の元に、再びユリアナが歩み寄っていた。
「今度は、正式な場でお会いしましょうね」
そう言って俺の手を温かく柔らかな両手で包み込んだ彼女は、
「あの子の事、よろしく頼みます」
俺の耳元に顔を近づけ、そう囁いたのだ。
そして、カチンカチンに固まって、
「ユ、ユ、ユ………」
(ユリアスのお母さん―――ッ?!!)
と、声が出ない俺に嫣然とする微笑みを残し、身を翻してその姿を廊下の奥へと消して行った。
―――それがユリアスのご母堂であり、この離宮の主でもあるイラスーン皇太后とのはじめての邂逅だった。