Fate 19   
 
ハリファを出立し、砂漠を渡り始めてから三日が過ぎていた。

『俺とて、然う然う出しっぱなしにするわけにはいかぬ』と言った通り、ユリアスは香を発することなく今日まで来ている。
時々、キスを仕掛けてくるものの、ディープなものになリ始めると我に返ったように身を放していくのだ。
確かに、男の自分が同姓に組み敷かれるという恥辱と、与えられるめくるめく快感に呑まれ、嬌声を上げ続けることには抵抗がある。
そして何より、自我をなくして無制限に欲望をい抱き続けてしまう、あのユリアスの醸し出すフェロモンは怖いと思っている。
―――なのに、だ。
途中でキスを終わらせられることに、消沈している自分がいることに気がついてしまったんだ。 
この矛盾な感情に、俺は途方を失わずにはいられなくなる。
失望にも似た小さな息をもらした俺は、遠く離れてしまったセシアたちのことを思い、気持ちを馳せた。
内殿で意識を失っている間に、ファティマたちの手によって介抱された彼女たちは、  
皆一様にして元気を取り戻していると聞いているものの、実際に自分の目で見ないことには安心できそうになかった。
そして別れの挨拶一つしないまま、ここまで来てしまったことにも、心が悔やまれてならないのだ。
だがそんなことは他所に、藤也を乗せた馬は黙々と砂塵を立てながらひたすら北へと走る。
 

馬を乗り換え、新たな水や食料などを補給した一行は、砂丘を駆け続ける。
太陽が地平線を赤く染め上げ、空は東からどんどん明るくなる頃、次第に風景が変わり、荒れ果てて寂しい景色になる。
そして荒涼としたその大地には、直径1mほどの岩塊がごろごろとしている岩場に変わり、  
注意深くきりたった岩壁の隙間の道を休まず駆け抜けていく。
その圧倒する岩々の前方に国境でもある山脈が視界に映る。
次第に勾配が増し、つづら折りの登りとなる険しい山道を進むと、国境を栄えに今度は下り坂になる。
砂漠の夜は、昼間とは打って変わり涼しくなるのだ。
さらに温度が下がる山道に差し掛かり、寒さに小刻みに震え出した俺は、温かいユリアスの胸にしがみついていた。


「……暑い」
自分の発した声で目が醒めた俺は、燦々と降り注ぐ太陽の眩しい日差しを、掌で遮りながらゆっくりと目を開けた。
見上げれば、太陽は雲一つない澄み切った青い空に高々と天頂に昇っている。
国境辺りから眠りについていた俺は、服を爽々と掠めていく、異国の香りのする風を思いっきり胸に吸い込んだ。
そして気づけば、辺り一面は真っ白な砂漠。
(うわぁ、すっげ―――っ)
青い海、白い砂……って言うのは、南国特有のものだと思い込んでいた俺は、その綺麗な光景に度肝を抜かされた。
砂に反射する陽光が一段とまぶしく見える中、ユリアスが口を開いた。

「藤也、間もなくアラヤ神殿に着く」
「アラヤ神殿……?」
「そうだ。イラスーンの信仰する太陽神アラヤは生命の誕生を司る、十二神中の至高神だ」
(……そんな神殿で何をするんだ?)
けれど、喉が渇き始めていた俺は、口に出して疑問を問い返そうとはしなかった。

ユリアスの一行は、日差しに弱い藤也を気遣いながら、何処までも続く白い砂の海を足早に進む。

腕の中で自分に凭れかかる藤也を穏やかな表情で見下ろしているユリアスは、その初めて熱望する存在を正妃に迎えるつもりでいた。
しかし、如何せん……ハリファは小国なのだ。
気がかりなのは、王国の中枢を担う上層部の一角に元老院と呼ばれる組織である。
厄介なことに、その大半は先代の王の時代より在籍している食わせ者たちであり、  
国王と対等とは言わないが、それに匹敵するほどの力を持っているのだ。
そう易々と首を縦に振らないことがわかっているユリアスは、アラヤ神殿へ寄り、神の前で正妃にすることを誓いたいと思っていた。

そしてなにより、ユリアスの、ふつふつと沸き起こる欲望の我慢にも限界が来ていたのだ。
 

 

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