Fate 17

アーモンドや干しぶどうなどを吹き込んだご飯、ローストされた牛肉、羊の煮込みトマトとオリーブオイルのサラダ……。
ファティマは質問には答えないまま、俺の目の前に、次々と料理のお皿を並べて行く。

「あの、何で俺……イラスーンに?」
「イラスーン王国の王であるユリアス様が望まれたからです」
(ひいぃ……ユリアスって王様だったの?!)
完璧といっていいほど男性的に整っている美貌と体躯。
圧倒的な存在感を持って現れた彼が、王だと言うのなら何となく納得はいく。
(―――でも…)
飲み干して空になったグラスを床に置くと、藤也は思いきって口を開いた。
「いくら王様だからって、こんなことしていいわけないよ」
「こんなこと、とは?」
ファティマは軽く方をすくめ、意味ありげな様子で俺を見つめる。
「意識を失っていた俺を、さらって連れてきたわけでしょ」
「確かに、とてもお疲れになられたご様子で、ぐっすりと眠っておられましたね」
といって笑い出したファティマは、空のグラスにジュースを注ぐ。
(ちょっ。そこ、笑わなくていいから……)
仕方ないだろ、俺、今まであんまりHしたことなかったし。
あんなに乱れちゃったのも初めてだし、ものすごく疲れちゃったんだから……。
恥ずかしくて、俺は赤らめた顔をぷいっと横へ背けて、小さく唇を噛んだ。                                                             

「ハリファ王国が我が国に同盟を申し込んできたのは、ご存知ですか?」
と、不意に問われた言葉に首を縦に振って答えた。
それで視察に訪れていたって聞いているし。
「ハリファが提示した条件は二つでした。一つは、とある銅山の採掘権。一つは、第一王女の後宮入り」
(―――後宮入り?それって正式な婚姻じゃなくて、寵姫の一人ってことじゃん)
政略結婚ですらひどいことだと思っていた俺は、後宮入りという言葉を聞いて憤りを感じ、同時に唖然とした。
「当初、ユリアス様は少し渋っておいてでしたが……」
ファティマは、何故か困ったように、少し口ごもるようにして続けた。
「どうやらユリアス様は、その第一王女をいたくお気に召されたご様子で、同盟の手続きを済まわれてしまいました」
(―――はい…ぃ゛?!)
「嘘っ。えっと、ちょっと……待って?」
動揺しすぎて、混乱して頭の中がパニックを起こした俺は、支離滅裂になる。
マディーナ王女は、まだ帰国していないのだ。
少し離れた国の、そう……確かベシェという街に、今も滞在しているはずだ。
それなのに、お気に召された、ってどういうことだ?
(そういえば……)
と、ふいに俺は内殿の寝室で会った時のことを思い出した。
確か、あの時、俺の名前を聞こうとしてファティマは言ったんだ。
“王女の偽者と言うことはわかって、聞いております”と。

「あ、あの。もしかして、その第一王女って……俺のことだったりしちゃいませんよね?」
冷や汗を垂らしながら、絶対に違って欲しいと、わずかな望みを切に願う俺。
「他に第一王女がいるとは、聞いておりませんので」
そう、くすくすと、それはもう愉快に笑いながらファティマは囁く。
「間違いなく、藤也様のことですよ」
(はぁぁ、やっぱりか……)
と、口の中で悄然と呟いた時だった。

バサッと大きな音と共に、乾いた熱風が流れ込んでくる。
「随分と楽しそうだな?」
それは、冷たく突き刺さるような低いバリトン。
振り向けば、天幕の入り口である垂れ幕を持ち上げた男が、不機嫌そうな面で佇んでいた。
「さて、邪魔者は消えましょうかね」
独り言のように小声で話しかけたファティマがゆっくりと立ち上がる。
ええッ?!ちょっと
待って下さい。
もう、全然邪魔者なんかじゃないですから、っていうか、むしろ……
(二人にしないでよ―――!!)
だが、俺の心の叫びも虚しく、ユリアスの横をすり抜けていく。

そのすれ違い間際、ファティマはにわかに声を顰めていた。
「如何でしたか?外の様子は」
「うむ。数日前、この近くのオアシスの目と鼻の先でキャラバンが蛮族に追われたらしい……」
今すぐにでも出立したいところだが、と思うユリアスだが、
その視線は天幕の奥で畏まったように腰を下ろしている人物へと流れて止まる。
この炎天下の中を移動するのは、あの白い肌を持つ藤也には厳しいだろうと、踏みとどまったのだ。
「イスファンたちには、引き続き警戒させている」
と、視線を自分に戻したユリアスに、
「では、日が傾き次第……ここを出立するよう、手配をします」
そう言って、ファティマは天幕の外へと消えていった。

 

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