Fate 10

「あれが、蓬莱人だからだ」
「「蓬莱人??」」

聞きなれないその言葉に、物事にあまり動じないイスファンでさえ、目を見開いている。
「……おそらくな」

……そういえば、昔。
王家に使えていた曽祖父が、退屈しのぎに話してくれた話の中に、蓬莱人が出てきたものがあったな、
とどこか懐かしく感じながらファティマは、耳を傾けていた。
最も、幼い時分だった所為か、そこはかとなくしか思い出せないのだが。
確かにあれは、蓬莱人の話だった。

「そうは言っても、私も始めて逢ったのだ」
まだ、確証は持てない、とユリウスは言葉を付け加えた。


―――イラスーンの王家には、古くから言い伝えられていることがある。
王族の血肉は、特定の者にだけ反応し、特定の者にだけ反応する特殊な成分を生み出すというのだ。
その“特定の者”とは、異なる世界からこの地に降り立ち、幸運を呼び寄せるという“蓬莱人”を指す。
そして、誰をも魅了するという彼の者を得た者は、その身も心も満たされ、同時に周りをも幸せにする……と言うものだ。
だが、渡来するのが数百年に一度あるかないかとう頻度からすると、余程の強運の持ち主でない限り、
出会う確立は限りなく0に近いだろう。
仮に蓬莱人が渡来していたとしても、この広い世界、見つけることすら困難のはずだ。
もっとも、真に受けて探そうとするほど王家は暇ではないし、実際に探したというものはいないらしい。
……と、まぁ、なんとも空想的な話ではある。

ユリアス自身も、釈然としないのだろう。
「だからこそ、確かめたい」
そう言った彼の表情は、嬉々としている。

ユリアスが、物事に関心がない、とか執着心が薄い、とか言われ続けてきたのは、
彼が幼い時から恵まれた環境にいたからなのだ、とファティマは考えている。
物を持ち過ぎている彼には、欲望という感情が人よりも薄いのだ。
常に必要なものは揃い、たとえ無くとも、彼の人望で物事は必然と集まってくる。
だから彼には、物事にこだわる必要などなかったのである。

そんなユリアスが、初めて執着を見せているのだ。
伝説的な存在であった“蓬莱人”は、唯一、彼が手に入れないものだったからなのだろう。
しかも、聞けば男だという。
ユリアス曰く、
「抱き寄せて身体が密着した時に、興奮しかかっていた、あの者の欲望が下半身に触れていた」
のだそうだ。

マディーナ王女の行方を調べさせろ、と命じたユリアスは、蠱惑的な笑みを浮かべ、
「替え玉をしていた本人に、直接聞いた方が手っ取り早いな」
と、呟いている。

―――今宵は、楽しくなりそうだ、とファティマは思う。

 

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