Fate 8

ふつふつと湧き起こった熱は、急速に上昇していく。

(一体、どうしたというのだ?)

女と接することなど、幼い時分より慣れているはずだ。
なのに……俺は今、初めて会ったばかりの女に興奮しているのだ。
あろうことか、欲望を孕んだ激しい衝動に突き動かされそうになっていることに、自分でも驚いていた。
強引にでも貪りつきたくなるのを、ぐっと奥歯を噛み締めてやり過ごし、目の前の女に再度、問う。
「違うのか……?」
するとハッとしたかのように身体がピクリと反応し、女の視線がゆっくりと俺の腕の中にいるウサギに移る。
「いえ。その、……ウ、サギです」
言葉切れ切れに、そう答えた女の身体が、その場に崩れ落ちそうになり、俺は咄嗟に抱きとめた。
そして、その細い腰を力強く抱き寄せた瞬間、
「ゃ……ぁっ」
甘く濡れた吐息が零れた。
欲情しているのが明らかに自分だけではないと、密着した腰の間の違和感が語っていた。
男なのか、と一瞬、驚いた俺の口角が楽しそうに吊りあがる。
(…………面白い)
そう思った俺は、腕の中の役目を果たして物体化したものを、傍らに控えていたイスファンへと放った。 
 

―――あれは、半月前のことになる。
その日の会議は、いつにになく重要なものばかりで、重たい空気が漂っていた。
やっと最後の議事も終わり、立ち上がろうとした時、末端に座っていた者が挙手したのだ。
それが、ハリファ王国から申請された、今回の同盟の話である。
それは偶然だったのか、それとも必然だったのであろうか。
本来なら、自らが動くことなど必要のない件ではあった。
だが我侭で、強欲な寵姫たちの相手にうんざりしかけていた俺は、気晴らしにと、この国へ足を運ぶことにしたのだ。
―――それが、どうだ?
まさかこんなところに、幼い時分に聞かされ、密かに欲していたモノがあるとは、露ほどにも思っていなかった俺が、
(なんたる強運!……神の采配か)
と、歓喜に打ち震えようとしていた時だった。

「「マディーナ様―――!」」

遠方から、バタバタと走り寄る足音と共に、高揚感が一気に失せる。
「チッ」
(……忌ま忌ましい)

しかも、恰幅のいい体躯をした男が、強引に俺の腕の中から奪い取っていったのだ。
(この男、どうしてくれよう)
これが我が王国の領土内なら、即刻、切り倒してやるところだ。
だが、そうもいかないため、煮えくり返るような気持ちを、目前の男に向けることで相殺させるも、
ことごとく、俺の努力を打ち破ってくれるのだ。
本当に虫の好かない男だ。
でも、まあ良い。

―――賽は投げられたのだから。

 

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