Fate 9

(……筋肉の薄い、柔らかな身体)
抱き寄せた腰は、力を加えれば折れてしまいそうに細く感じた。
(ヴェール越しに零れた熱い吐息と、甘い声……)
直にこの手で触れたら、どのような嬌声を上げるのだろうか。
(……欲しいな)
今まで自ら欲したものなど、一度たりともなかった。
もちろんそれは、望まなくても必要なものは全て自分の回りにあり、望む必要性がなかったということもあるが、今は、無性に欲しいと思う。
あの柔らかな身体も、声も、そしてあの吐息さえも……。
その全てを自分のものにしたい、そう切望するユリアスの紺碧の双眼は、飢えた猛獣のようにギラついていた。
  
先ほどの一件の所為で、警備の者が多少増えたのは致し方ない。
そう思いながら、放射状に枝分かれした小径を北に進み、庭園を半分ぐらい戻った頃。
一旦足を止め、慎重に辺りを伺ったユリアスは、傍らの一人の名を口にした。

「ファティマ」
「はっ」
呼ばれた優美な男は、透かさず膝を折り、耳をそばだてる。
「極秘で、マディーナ王女の行方を調べさせろ」
「…………は?」
一瞬、何を言われたのか分からなかったファティマは、わずかに首を傾げたまま、間抜けな声を漏らした。

「あの者は、王女ではない」

告げられた言葉に、ユリアスの傍らにいた、二人の男たちの表情が硬くなっていく。
同盟の話が持ち上げられている今、王女が替え玉だったとなれば、ことは大事になりうるのだ。
もし仮に、偽者だとは知らずに誰かも分からぬ者を王室招き入れ上、あまつさえ、子供が出来ようものなら……。
我々は、ハリファの血が流れていない子に継承権を与えることにもなる。
もちろん、姿を隠すという伝統のある国と婚姻を結ぶということは、そういうリスクも念頭に置かなければならないのも事実である。
でもそれは、逆に言えば、それだけ相手の国を信じるという信頼関係が成り立つというものだ。
それはさて置き、今回、ユリアス本人にその気がなく、婚姻の申し出を断ったとしても、
同盟の話には、割と乗り気だったこちら側としては、裏切られ、小国に揶揄されたことには変わらない。
もっとも、あのユリアスがこの件を黙って見過ごすとは思えないが、百歩譲って大事にする必要はないと思ったとしよう。
イラスーン王国の上層部の中には、先代の王から使えている、少々頭の硬い融通の利かない年配も多いのだ。
彼らが皆、団結でもすれば、いくら王とはいえ、説得を施すのも、反対を貫くのも至難であろう。
下手をすれば、国を巻き込んだ戦いにさえなるのだ。

そう思った時、ファティマの頭の隅に疑問が生じる。
あの時の小柄な女性は、黒いヴェールを被っていたので、はっきりとした顔は分からなかったのだ。
いや、それ以前に……王女の容姿すら知らないのに、何故偽者だと判断できたのだろうか。

「失礼ですが、何故そう思われたので?」
不思議に思ったファティマの問いに、返されたのは思ってもみない答えだった。

 

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