Fate 2

太陽が西の地平に傾きかけ、日差しが僅かに柔らになりかけている午後……。
とある青年は、持ち前の手入れの行き届いた艶やかな黒い髪をゴージャスなシニヨンに纏め、
美しく整えられた庭に設けられた東屋で、侍女が用意したお茶を嗜んでいた。

美形は美形でも、容姿端麗と一言で括れるレベルを遥かに凌駕してしまう絶世の麗人である。
女性顔負けの肌理の細かい肌。
バランスの整っている鼻筋に艶やかに赤く色づいた唇。
そして貴石のように輝く漆黒の瞳。
長く細い睫毛が艶を帯びていて印象深く、繊細な美貌は目が眩むほどである。

そんな彼の膝の上には、お気に入りのチェストナット色の可愛いミニウサギの「ルビー」が、
あどけない鼻をぴくぴくさせて、ちょこんと座っている。
寂しさを紛らわせるようにと、マディーナ王女からプレゼントされたこのウサギの首には、
ルビーの頂点に立つという、稀少価値の高い極濃の大きな『ビジョンブラッドルビー』の首輪がつけられていたのだが、
それを見て、驚いた彼が「ルビー」と命名したのである。

「痛……ッ」
「如何なされました?」
僅かに顔を顰めた籐也の顔を、侍女のセシアが心配そうな表情で覗き込んだ。
「また、ルビーに指を噛まれちゃった」
ふふふ、と少しはにかむように笑った籐也の顔があまりにも美しくて、見慣れているはずのセシアの視線が思わず固まる。
「……セシア?」
不思議そうな声音で名を呼ばれ、ハッと我に返ったセシア。
「も、申し訳ありません。直ぐにルビーのおやつをご用意して参ります」
慌てたように頭を下げて挨拶し、踵を返そうとした
瞬間、
(いけない、私としたことが。大事なことを忘れるところだったわ)
心の中でそう呟きながら、青年に黒いヴェールをかけた。

―――そう、この俺、小塚籐也の容姿は、誰にも見られてはいけないのである。
何故なら、この世界には、漆黒の髪と瞳の両者を兼ね持つ者は一人として存在しないからだ。

二年前の某日、激しい頭痛に見舞われた俺は、
偶発した不慮の事故に巻き込まれ、信じられないことに、この世界に飛ばされてきたのだ。

トリップ先の砂漠は、温暖気候に慣れた日本人の俺には厳しい場所だった。
体験したことのない乾燥地帯の暑さで参っているところに、盗賊団に襲われてしまった俺は、
その場で意識を失ってしまい、目を覚ましたらハリファという国の第一王女が住む内殿と呼ばれるお屋敷のベッドの上だった、というわけ。
何故そんな場所にいたのかというと、偶然通りかかった人物によって助け出されたらしいからだ。
王女付きの護衛騎士の一人である、命の恩人であるその人は、
俺の姿を誰にも見られないように布で包み、王女の元へ連れて来たという。
そして、彼女にいたく気に入られてしまった俺は、密かに王女の内殿で暮らしているのだ。

匿われるよな生活ではあるが、地位のない俺にはセシアという専属の侍女が宛がわれ、王族と同等な扱いを受けている。
そのため、自分の置かれている生活そのもの自体には不自由や不満はない。
敢えて一つ挙げるとすると、髪を伸ばし、ドレスを着て、女性のような格好をさせられていることである。

 

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