Fate 1

……サラ、サラ……

……サラ、サラ……サラ……

(―――何、この音?)

意識が浮上し始めた耳元で、聞きなれない音がする。
(いや、それよりも……)
コクリ、と乾いた俺の喉が鳴る。
「み、水……飲みてぇ」
(駄目だ、暑くって寝てなんか要られない!)
だが、起きようと身体に力を入れた時の奇妙な感じに、思わず固まった。
(……えっ?)
無意識に握り締めた掌を広げると、さらさらな砂が指の間から零れ落ちていく。
(う、嘘だろ―――?!)
目に映ったのは、砂、砂、砂……。陽炎にユラユラと揺れる、何処までも続く砂の海。
そして、雲一つない澄み切った青い空と、燦々と照りつける太陽。
その風景は圧倒的で、それはどう考えても間違えようのない「砂漠」だった。

「マジかよ?!」
(……ってか、ここ……何処よ??)

そもそも、なんでこんな所に俺はいるんだ? と考えた瞬間。
甦ったのは、ホームに滑り込んでくる電車の警笛と、鳴り響く急ブレーキを掛ける車輪の轟音。
そして遥か遠くで聞こえる、誰かの「危ないッ」と叫ぶ声と悲鳴……。
思わず、ぎゅっと瞼をきつく閉じた。

俺はこの十七年間というもの、大した風邪も引いたことがない、健康優良児だったんだ。
なのに、学校が終って友達と地下鉄で別れた後、突然激しい頭痛に見舞われて。
ガンガンと、頭が割れるような激痛に、俺はとっさに頭を両手で抱え込んで耐えようとしてたんだ。
そんなところに、後ろから何かが身体にぶつかった。
今思えば、それは鞄だったような気がする。
普通の状態なら大したことにはならない接触も、あの状態では過剰に反応してしまう。
力が入らない俺の身体は、踏ん張ることもできないまま前方に押し出され、……そのまま線路に落ちた。
だから、考えたくはないけれど、きっと俺の身体は電車に引かれてバラバラの状態……なんだと思う。

(―――…ってことは、ここは天国?!)

だけど、天国が砂漠なんて、聞いたこともない。
いや、この状況は天国というよりも、
(……むしろ、地獄??)
突き刺さるように痛い強い日差しは、三十分と経たないうちに、身体中の血液が蒸発してしまいそうな感じだし、
唇は乾きでひび割れ、呼吸をする度に乾燥した熱い空気が、俺の喉を苦しめているのだから。

……それにしても、汗がじわっと出た瞬間に蒸発してしまう暑さは、厳し過ぎる。
どうにかしなければと、なんとか立ち上がろうとした時だった。

遠くの彼方から、何か地響きのような微かな揺れを感じ、後ろを振り返った。
地平線の上に、ゆらゆらと陽炎が揺らめき、その中に黒っぽいシルエットが浮かび上がる。
音と共にその姿が徐々に大きくなってくる頃、それが、馬に跨った七〜八人の男たちだということがわかった。
黙々と砂煙を立てながら、こっちを目掛けて走って来ている。
(やった、助かった―――…)
と思ったのは、つかの間で。
頭から黒い布をすっぽり覆った男たちが手にしていたのは、信じられないくらいに大きな剣。

(ヤバイ! 逃げろッ)
俺の頭の中に、警報が鳴り出す。

『ξ×☆γ。Θφ◇δψ※!』

男たちが訳のからない言葉で口々に何か叫んでいる。
捕まったら最後。
下手したら殺されるかもしれないのだ。
「……はっ、はぁ。はぁ……っ」
だが、すでに体力は奪われ、身体は鉛のように重い。
それでも、必死になって走ろうとしたけど、
砂に足が捕らわれて思うように動けずにいる俺の意識は朦朧としはじめ、心臓は悲鳴を上げていた。

(……暑い、暑い。体中暑くて、息が苦しくて、つらい)
ああ、これが夢ならどんなに良かっただろうか……。
そう思った数秒後には、周りを取り囲まれ、四方から幾つもの縄が投げ出さられるのを最後に、俺の意識は遠ざかっていった。

 

                                     BACK               NEXT