あの日あの時『琵琶湖イカダ漂流事件』
テーマ:☆あの日あの時~高校二年生、夏~
高二の夏。
『イカダで琵琶湖横断とか熱くない?』
僕らはいつもの神社で、そのバカげた計画を思いついた。
出発日前日。
イカダで琵琶湖横断メンバー8人が集まり、隣町の図書館での作戦会議をした。
『どこを横断するよ?』
『モチ、一番太い所やろ』
イカダ出発地点は僕らの住む場所の真っ反対側。
そこまでは二人一組に別れてヒッチハイクで行く。
イカダの木材なんかは現地調達。
難しいことは考えない。
なんとかなるさっ。
いつもそんな感じでやってきた。
出発日当日。早朝
ペアに別れた僕らは、
琵琶湖の反対側に向けてヒッチハイクを開始した。
僕は中ノ庄とペア。
険しい山道を突っ切り、
パーキングエリアへ到着。
そこでグラサンのおっさんに乗せてもらい目的地まで後20キロって所まで。
…20キロか…よし!!歩こぉ!!
ビニールヨット他、大荷物を背負って炎天日の中ひたすら歩く。
汗が乾いて塩になりTシャツが白くなってる。
…と、一台の車が停まった。
『どこまで行くんや??』
軽自動車に乗ったファンキーなおっちゃんが、
目的地まで一気に送ってくれた。
昼過ぎに目的地到着。
琵琶湖に面した大型キャンプ施設。
みんなはもう着いてて僕らのペアが一番最後だった。
僕『さぁ木材集めるか!!』
僕の声に福徳が浮かない顔で返す。
福徳『しん、やっぱ辞めんか?』
みんなも福徳の意見に賛成だった。
目の前の広大な琵琶湖を見てビビってしまったのだ。
猛反発する僕。
僕『大丈夫!!死なんって!!やるって決めたやん!!』
僕らは煮え切らない状況のまま、イカダの材料集めを始めた。
木材は木工所から、
釘や杭は鉄工所から、
オール代わりのスコップを民家からそれぞれ拝借した。
それでもまだやるかどうかははっきりしてなかった。
キャンプ場へ戻る途中、
浩平がボソッと言った。
浩平『お前だけやん、やる気なの』
プッチーンッ
僕はぶちギレて、浩平に殴りかかった。
みんなが止めてくれて、なんとか納まったが、
雰囲気はめちゃ悪かった。
キャンプ場に戻ってきた僕ら。
福徳が聞く。
福徳『絶対死なんって約束出来る?』
僕『おう、俺らが死ぬわきゃないやん』
いつもの俺の根拠の無い自信。
しかし、それで決行が決まった。
出航は明日の朝。
夜、仲良くなった親子に焼肉をご馳走になって、腹いっぱいの僕ら。
野宿する場所を探し、ウロウロしてる所を管理人にとっ捕まった。
管理人『ったく。しょうがない子らやな。うちに空いてる部屋あるからそこで寝い』
ツイてるぜ。
出航の朝がきた。
ゴミ箱からかき集めたペットボトルを、琵琶湖に浮かぶブイを、
それぞれイカダに装着し、浮力も確保。
イカダの後に、ビニールヨットもつけ、
食料も買い込んで準備は万端。
乗るのは僕、福徳、中ノ庄の3人。
あとのみんなが見送る中、
僕らはイカダに乗り込んだ。
雲一つない晴天。
オールで漕いだり、泳いでバタ足で漕いだりして進む。
ちょいと進んでは休憩を繰り返す。
沖がもぉ遠くに見える。
冷えたジュースを喉にぶち込み、ビンに入ったタバコに火をつける。
寝そべってひなたぼっこ。
琵琶湖にポツンと浮かぶ僕らのイカダ。
最高すぎた、もぉパラダイスだった。
夕方近く、僕らはもぉ半分の所まできてた。
つまり琵琶湖のど真ん中。
なんだ、楽勝じゃん。
僕らは余裕をぶっこき、イカダから少し離れて湖水浴をエンジョイしてた。
…と、
『助けてぇ』とゆう声。
福徳が溺れていた。
…波が強くなってきてる。
イカダに装着してた浮輪を福徳に投げる僕。
が、浮輪は三つとも波に流されてしまった。
福徳はなんとかイカダに辿りついたけど、相当ブルー。
一気に重くなる空気。
どんどん波が強さを増していく。
そして…イカダは前に進まなくなった。
どんなに漕いでも波で押し返される。
しだいに激しさを増す波にオールさえも、さらわれ、失った。
『夜の琵琶湖は漁師も近づかない』
そんな言葉を思い出した。
福徳『…レスキュー呼ぼ』
福徳がボソッと言った。
夕暮れ前、
僕ら3人は琵琶湖のど真ん中で漂流した。
日が暮れていく。
波の高さは1メートルを越え始めた。
僕らに容赦なく降り注ぐ波。
一向に進まないイカダ…。
このままじゃ…死ぬ。
ついに僕は携帯電話を取り出した。
電波は1本。
レスキューにいきさつを説明してる余裕はない。
僕は今頃帰ったはずの仲間に電話をかけた。
僕『…レスキュー要請してくれ!!』
友達『はぁ??』
いつもの冗談だと思って信じてくれない。
…と、福徳が俺の携帯を横取る。
福徳『冗談ちゃうんや!!レスキュー呼んでくれ!』
この福徳の叫びに友達も、事態を飲み込んだ。
滋賀県全域の湖岸にパトカーが、
琵琶湖に捜索船が数台、
琵琶湖の上空にヘリが二台。
ついにレスキューが出動した。
夜がきた。
遠い上空でヘリが飛んでる。
レスキューとの電話のやり取りが続く。
レスキュー『どの辺りかわかりますか!?目印になりそうなものとか!?』
僕『…えぇっと…目印…』
周りに目印になりそうなものなんてない。
琵琶湖はでか過ぎる…。
猛烈な波揺れで酷い船酔い。
もう5回は吐いてた。
心身共に3人とも限界に達していた。
と、波が携帯を濡らした。
で…電源が入らない。
僕『シャレならんな、こりゃ』
ちょうどその頃、
NHKで3人の行方不明が報道され、
ヘリの捜索打ち切りが決まった。
時刻は22時。
オエェェェェ。
8回目の嘔吐。
体が衰弱しきってる。
福徳は泣き、
中ノ庄はウツロな目でビニールヨットで横になってる。
あれ?…死ぬのか俺ら。
死ぬってこんなもんなのか?
もっとこぉ、走馬灯とか、ほらっ。
え?マジで死ぬのか?
23時。
僕らは向こう岸をウツロな目で見つめてた。
…どこかののんきな若者が花火してる。
…ん!?
花火?若者?
いつのまにかそんな事を認識出来る程、イカダは陸に近づいていた。
…でも近いと言っても後2キロはある。
僕が二人に聞く。
僕『こんなとこでくたばるんなら、いちかばちか泳いでみっか?』
僕が振り向いた時、
福徳はもう琵琶湖の荒波の中に飛び込んでた。
イカダをビート板代わりにして、僕らはひたすら泳いだ。
体は限界をとぉに越えていた。
大きな波がくる度水を飲んで、むせた。
息がよく出来ない。
足がつりそうだ。
それでも前に進んだ。
…僕らはまだ死ねない。
まだ見てない景色が沢山あるんだ。
まだ出会ってない人が沢山いるんだ。
まだ叫んでないことがいっぱいあるんだ。
まだやりたい事が山盛りあるんだ。
こんなとこで死ねっかよ!!
泳ぎ始めて1時間過ぎたころ、
足が、忘れかけてた地面の感触をつかんだ。
僕『ここどこですか?』
海パン一丁の3人は通行人の人に場所を聞いた。
『えっ?彦根だけど』
僕らは目的だった一番太い所を横断していた。
とりあえず飯だ。腹が減って死にそうだ…と、
のんきにコンビニを探す3人の前に一台のパトカーが停まった。
その後、次々にパトカーがきて三人の周りを囲む。
警察官が降りてきた。
警官『上田君だね?』
その直後、記者っぽい人達がやって来て三人を激写する。
唖然とする海パン姿の僕らは毛布をかけられ、
あっとゆう間に救急車にぶち込まれた。
救急隊員がトランシーバーに叫ぶ。
『少年三人確保!!』
病院で検査を受けてる時に、それぞれの親が来た。
僕のお父さんは笑ってたけど、
福徳と中ノ庄の親はそりゃぁもうカンカンだった。
警察署での取り調べを終え、
僕らはやっとそれぞれの我が家に戻った。
…新聞を広げる僕。
それを読んでニヤつく反省ゼロの僕。
正直、
”さて、次は何をしようかな?”と思ってた 笑
以下、中日新聞抜粋—
手作りイカダで横断中に行方不明となっていた三人が自力で無事対岸の湖岸に辿りついた。三人は、『イカダで琵琶湖を横断して夏休みの思い出を作りたかった』と、語っていた。
夏休みの思い出とか、そんなんじゃないよ。
なにか、でっかいことしてみたい…。
高校二年生のまともな男なら、誰でも思ってることじゃないか。
じゃあ、俺は一生高校二年生だなっ☆
■無題
見にくい。