北朝鮮がシリアの核施設建設に協力していたと「確信する」との米ホワイトハウス声明の衝撃は、世界の火薬庫である中東地域での核拡散の恐怖を再認識させるだけではない。シリアと北朝鮮の核が結びついていたと認めたブッシュ政権は、ヒル国務次官補が進めてきた対北融和路線の変更を迫られるだろう。
米政府は議会の秘密公聴会にビデオや衛星写真などの資料を提供し、その後にペリーノ大統領報道官名の声明を発表した。
声明は昨年9月にイスラエルが空爆したシリアの施設を「プルトニウムを生産するために建設していた原子炉で、様々な情報を分析した結果、北朝鮮がシリアの秘密裏の核活動を支援していたと確信する」と断定した。破壊された施設は「平和目的とは考えられない」と言明した。
中東と北朝鮮の核を結びつける声明をなぜこの段階でブッシュ政権が発表したのか。理由は確認できないが、確かなのは、その結果だ。
米政府は北朝鮮の核に関しては、実は米国の核兵器による拡大抑止戦略によって日本などの同盟国を守れると考える。一方、中東の核に関しては格段に神経質になる。今度の声明によって米議会や世論が北朝鮮に対しても、より厳しい姿勢を求めれば政権側は拒否しにくい。
北朝鮮の核をめぐる6カ国協議は昨年末の期限を過ぎても北朝鮮による核計画の申告がなく、停滞している。北朝鮮側は核拡散や高濃縮ウランに関して文書上の譲歩をしたとも伝えられた。この段階でホワイトハウスが今回の声明を発表したのは、国務省主導で進んできた北朝鮮との交渉への不満の表明ともとれる。
ブッシュ政権は、昨年1月に北朝鮮政策を現在の融和路線に向けてかじを切った。ヒル次官補の説明をライス国務長官が了承し、ブッシュ大統領を説得したとされる。この時期はイラク戦争のつまずきを理由にした政権内の保守派の退潮ともほぼ軌を一にしていた。
しかし、北朝鮮が核計画の申告をめぐって歩み寄りを見せず、ヒル次官補の発言内容も北朝鮮に厳しくなった。ライス氏も融和路線と距離を置く姿勢を見せてきた。日本から伝わるヒル路線に対する不満、韓国の李明博政権の発足も、ホワイトハウスの判断に影響したとみられる。
北朝鮮であれ、シリアであれ、核拡散を許してならないのは当然である。日米韓にとどまらず、国際社会が結束しなければならない課題である。どんな手を打つか、日本からの政策発信も重要になる。