「もう3年、まだ3年。私は『なぜ』という思いだけで生きてきた」。JR福知山線事故の慰霊式で遺族代表が述べた言葉だ。この3年の間に、JR西日本の体質変革はどれほど進んだだろうか。
国土交通省航空・鉄道事故調査委員会は昨年6月の最終報告で、運転士のブレーキの遅れが直接原因との判断を示し、JR西日本の安全軽視体質を厳しく指摘した。
JR西日本の安全関連の投資は年間930億円(08年3月期見込み)と事故前の約2倍に増えた。整備が遅れていた新型ATS(自動列車停止装置)も、10年度までに京阪神都市圏への導入を完了する予定だ。
懲罰色が濃いとされた日勤教育は実践的な再教育に改め、ヒヤリとした体験の報告を奨励した。安全確認のためのダイヤ混乱が最近増えた、と思う利用者も多いだろう。異常を感じたらまず運転を止めて調べるという動作は浸透してきた。
今年3月に策定した安全基本計画では「リスクアセスメント」を導入した。重大事故につながる危険度を数値化し、予兆を探って事故を未然防止する手法だ。 従来の対症療法からの転換で注目に値する。だが、それを有効活用できるかどうかは、情報を共有する意識の徹底と、予兆に敏感に反応し、これまで以上の安全投資を惜しまない経営姿勢にかかる。
今年1月、大阪市内でポイントの誤作動から特急が通勤路線に進入した。2カ月前にも誤作動があったのに、現場も担当部署も重大な予兆と認識せず、その場の措置で済ませていた。
遺族説明会で、山崎正夫社長が「被害者との溝が少し狭まった」と発言し、強い反発を受けた。毎日新聞のアンケートでは、遺族の半数以上が「JR西日本の安全対策は評価していない」と答えている。
技術や経験を過信しやすい気質と、安全投資を後回しにしてきた企業風土への不信は根強い。それを肝に銘じておく必要がある。
JR西日本は今後、本社から支社への権限委譲を進める。地域ごとに創意工夫する余地があれば、危険への即応性も高まり、現場からの報告や提案の敷居も低くなる。うまく機能すれば効果は大きいだろう。
刑事責任の追及も長期化している。兵庫県警は歴代トップらを事情聴取した。線路が急カーブに改造されたのに、ATSを設置しなかったことが焦点だ。幹部らは、ATSがあれば事故は防げたが、速度超過で事故になるとは予見できなかった、と説明している。
責任があいまいな「組織決定」の失敗を教訓にしなければならない。遺族グループから公開質問状が出されている。JR西日本は誠実に回答すべきだ。兵庫県警にも捜査を尽くし、可能な限り詳細を公表することを望みたい。
毎日新聞 2008年4月26日 東京朝刊