やっと認めたか、という印象がある。米政府は24日の声明で、シリアの核開発を北朝鮮が支援していたとの見解を示した。昨年9月、イスラエル軍機がシリア領を空爆してからくすぶっていた疑惑を、米国は約7カ月後にようやく事実と認めたわけだ。
北朝鮮とシリアはこの疑惑を否定してきた。私たちも米国の発表をうのみにする気はない。だが、映像で示された「証拠」を踏まえて、少なくとも二つのことは言えるだろう。
北朝鮮とシリアは、国際原子力機関(IAEA)に報告していない核開発と技術支援をめぐる疑惑を、国際社会にきちんと説明すべきだ。もう一つは、こんな状況で北朝鮮に対する米国の「テロ支援国家」指定が解除されてはたまらない、ということである。
指定解除は基本的に米朝2国間の問題である。しかし、北朝鮮が昨年中に果たすべきだった核施設無能力化や核計画の完全な申告は遅れに遅れ、6カ国協議を構成する日米韓中露の5カ国は、北朝鮮への対応に苦しんでいる。
そんな折も折、北朝鮮の新たな問題行動(シリアへの核支援)が明るみに出たというのに、米国が北朝鮮にアメ(指定解除)を与えるのは、とうてい支持できるものではない。
親イスラエルの空気が強い米議会も、早期の指定解除には賛成しまい。シリアへの支援を通じて北朝鮮がイスラエルの安全を脅かしたという意識が強まれば、北朝鮮問題は米議会や一般の米国民にとって、がぜん身近になってくる。
その反対に、米政府は指定解除への布石として北朝鮮の問題点をさらけ出した、との見方もあるが、北朝鮮問題に「イスラエルの安全」という隠れた要素が加わり、米政府が甘い対応をしにくくなったのは歓迎すべきことかもしれない。
イスラエルは81年にイラクの原子炉を空爆している。この時は空爆翌日に両国と米国がそれぞれ声明を発表した。核施設の攻撃という重大事件である以上、迅速な発表は当然である。
しかし、昨年9月の場合は、当事国のイスラエルとシリアがほぼ沈黙を守り、米当局者もあいまいな発言に終始した。イスラエルの空爆の是非はともかく、従来の例に照らせば、同国の軍事行動の概要を米政府がまったく知らないということはありえない。
イスラエルは原子炉建設現場を撮影し、これを米側に知らせたうえで空爆したという情報もある。米政府は6カ国協議への影響を懸念したのかもしれないが、事実は事実として速やかに公表すべきだった。
北朝鮮の「対シリア核支援」を伏せたまま米国が「テロ支援国家」の指定解除に踏み切っていたらと考えると、ゾッとする。不透明な取引は将来に禍根を残すだけである。
毎日新聞 2008年4月26日 東京朝刊