―8― 絶望
こいつ、キモーい!いい加減死にーさぁ!」
「ホンマにお前は心の底からうっといヤツやな〜・・・いい加減、うざいから死んでく
れへん?」

いつも、机の中に手を入れるとこんな言葉の書かれた手紙ばかりだった・・・。
「何で日本人に生まれてしまったんだろう?」と僕を後悔させるには十分過ぎるものだった。


「何、こっち見とんねん。」

小学校の頃は体格もがっしりしていなかった方だったし、少しのことで因縁をつけられ
ると拳や蹴りの応酬・・・
顔まではいかなかったが、肩や足を殴られるなんてよくあった。
骨折したり、血を出したりとかそんなのはなかったけど僕の心を傷つけるには十分過ぎ
るものだった。

家に帰れば、ふすまの向こうから聞こえる父さん・・・
いや、「あの男」の罵声と母さんを打つ冷たい乾いた音・・・

「ぐぇっ!」「ぎゃぁっ!」

人間の声とは思えない程の悶え苦しむ母さんの声・・・
罵声と冷酷な暴力の嵐が去った後の母さんの泣き声・・・。

・・・・・・・・僕は人に向かってゆくことも出来ない。

そして、中学校・・・
小学校の同級生が入学する街の方の中学校へとは進まず、誰も自分を知らない北の山に
ある中学校に入学した。
何とかいじめられない程度には生きていたけど・・・
周りを見れば男子は皆、女子と付き合ってる連中で固まってた・・・。

・・・・・・僕は一人だ。

そんな僕にも片想いだけど好きな人が出来た。
苦しみ悶える日々に耐え切れず、遂に告白したあの日・・・

「は?何言うとんの?」

翌日、僕の噂は教室中に広まり僕は「いじりいじめ」のターゲットになった・・・。

・・・・・・何故なんだ・・・?

2年生の中ごろになると、「あの男」は外で酒を飲んでは風俗にギャンブルに金を使い、
酔っ払いながら家に帰り、疲れ果てて眠る母さんの顔に平手を食らわしてたたき起こし
ては,ひたすら暴力と罵声の嵐を浴びせるようになっていた。

そして、2年の終わり・・・母さんは死んだ。
「あの男」に殴られ、僕に見殺しにされて・・・。
人を助けることも、人に向かってゆくことも出来ないこんな僕をどうかどうか・・・
救ってくれ・・・・・・・。

そして暴力の矛先は僕に向けられた。
朝は父の平手から始まり、夜は父の平手が背中を叩く。

朝日が来る度に、ああまた「今日」が始まるのか・・・
月が落ちるたびに「今日」という日が終わったことに安息し、そしてまた「今日」が
始まるのかという絶望にかられながら眠る。

古都を後にし、南の都で見つけたほんのわずかな幸せ。
ようやく見つけた人並みの生活。

僕が居たい場所・・・この人と一生同じ空気を吸って生きたいと思えた。


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