企業ウェブサイトは、ビジネスブログ、CMS化が進んでいる。更新が容易なこと、RSSやトラックバックにより情報間のリンク機能が充実していること、比較的低コストなことが好まれているのだ。株式会社GENOVAはMovableTypeを使用した企業CMS構築では評価が高い。制作実績は既に600社、プラグイン提供まで含めれば1000社を誇る。同社の躍進の秘密とは? 核心に迫るべく代表取締役社長の平瀬智樹氏に話を聞いた。
高校中退後、株式会社テレウェイヴに入社。営業に配属されて事業立ち上げや支店開設などを経験。2003年米国に語学留学し、起業支援プログラムに関わる中で自らも起業を決意。2005年に帰国し、同年7月に株式会社GENOVAを設立、代表取締役社長に就任
米国留学で起業を決意
「僕自身はインターネットからは程遠い人間なんですけどね」と笑いながら前置きして、平瀬氏は起業に至る経緯を語り始めた。
高校中退後、通信機器販売を手がける株式会社テレウェイヴのセールススタッフとして働く。成績はトップで、大阪の支店開設やネット時代到来に伴う新規事業立ち上げに関わるなど、ビジネス経験にも恵まれた。
会社の上場を機に退社。念願の語学留学を果たすべく5年前に渡米、これが起業のきっかけとなった。
「インターネットのコアな部分には興味が無かったんですが、僕がアメリカに渡った頃にグーグルが上場するということがあって『面白い会社だ、新しい時代が来るな』と感じました。
ちょうど同じ時期、大学などで学ぶアジアからの留学生を主な対象とした起業支援プログラムにアルバイトとして関わることができ、既に起業した人や起業を目指す学生の話を聞くうちに『自分でも起業したいなあ』と意欲が湧いて来ました」
2005年に日本に戻ると、早速六本木の起業オフィスに机を借り、たった一人で事業をおこす。
「最初はネットで留学を支援するeラーニングのような事をしようと準備していました。けれどもこれは結構お金がかかる。
ところが当時は、CGMやブログという言葉が一般に浸透してきた時期。『ブログでページを作ってくれ』という依頼が多く舞い込み、結構売れたんですね。自分はメディアを使って別の事をしたかったけれど、ブログ自体が商品になった。資本金1000万円の半分を既にeラーニングに突っ込んでいましたが、開業わずか2週間で(笑)CMS制作がメインの今の業態へと方向を転換した訳です」
まさに機を見るに敏である。営業や開発の陣容を整えて、平瀬氏の本格的な挑戦が始まる。
会社は渋谷のど真ん中、宇田川町にある。「美容室でEC始めたり。営業マンが足で稼いだ情報をもとに地域密着ビジネス支援を目指します」
業種毎にカスタマイズ。地域密着ビジネス支援
GENOVAが提供するCMSサービスの特徴は大きく分けて2つある。1つは独自開発のプラグイン「MTEntryFlex」。これにより一切のタグ操作を排除し、誰でも気軽に更新できる操作性を実現した。そしてもう1つが業種毎に表示項目をカスタマイズしている点だ。
「最近はMovableTypeにも標準で似た機能を持つプラグインが実装されていますから、プラグインだけでは差別化が難しい。当社は業種毎のニーズや使われ方を細かく調査、フォローする中で最適のものを提供できます」
例えば、最も需要の多い不動産業向けには物件情報がこまめにアップできるような機能を用意。間取りや床面積など必要十分な入力項目が予め用意されており、担当者は項目を埋めるだけで更新可能。画像アップロードも含めてタグ操作が不要だ。また、物件情報とGoogle Mapを連動させて地図上に物件位置をピン表示する機能もある。
「また歯科や小規模医院ですと、院長日記を作って、医師の人となりが伝わるように工夫しています。またリフォーム業者なら施工の前後を『ビフォー&アフター』として表示したりと、様々です。
中小企業の顧客は地元ですから、その地域内で注目されて評判が上がるようなCMS作りに取り組んでいます」
ブログでの更新に伴いリスティング広告の重要性も増す。同社はリスティング広告大手のオーバーチュアと提携して、企業CMSの側面支援にもぬかりがない。
「他にもMovableTypeにはなかったリンク管理機能を搭載して、企業の最新情報が検索および相互連携されるような環境を整えています」
こうして、月にして約30件の新しい企業CMSがGENOVAより立ち上がっていくのである。
企業ウェブはCMSに加速する
企業ウェブサイトの趨勢について、平瀬氏はこう分析する。
「中小企業はウェブ担当者を置けない場合がほとんどだと思います。また大企業であっても、部門ごとにサイトを開く場合は専門の人間を置けないでしょう。
そうするとニーズがあるのはやはり更新が容易なCMSという事になりますよね。
今までならサイトにとりあえず会社案内だけのせておくけれども他に使い道がわからない、というのはあったと思います。でももうそれでは誰にも見向きされない。今はウェブ上の情報からビジネスがはじまる時代です。XHTMLで記述され、SEOにも強いCMSが歓迎されるのは当然です」
実際に企業CMSサイトを見てみると、最新の情報やサービスがほぼ毎日更新され、企業が提供できるサービスをよりリアルに把握できるようになっている。市場が成熟し切った今日、BtoCビジネスでは消費者は広告を鵜呑みにせず、自分で情報を見極めて消費行動に移る。CMSは消費者にとってもまたとない情報提供ツールと言える。
そうした流れを見据えて平瀬氏が構想するのは、各企業のウェブ上でのビジネスをフルサポートする態勢づくりだ。
「例えばネット広告やSEOは自社ではなくて他社のサービスを取り込む形でお客様に提供しています。今後の開発部門の仕事は、他社のサービスでどこが最も優れていて、我々のサービスとどう連携できるかを検証していくことの比重が増えていくでしょう。SEOの会社は今すごく多いですが、1週間に数社会って最も良いサービスを提供できるパートナーを探っています。
そういう仕組みを作ることで、お客様に総合的なネットビジネス環境をご提供できる点が、我々の最も強みとする所ですね。お客様にとって最良のサービスを提供することを考えたら、そうなりました」
他にもスターティア株式会社と組んで文字検索に対応したFlashベースの軽快なウェブブックサービスもリリース。大手出版社からも引き合いがあるという。
「大企業も含めて、企業サイトのCMSは今後一層加速します」
平瀬氏の視線は全くブレない。
現場のニーズ掴むため“築地市場で働く”
それにしても、である。この平瀬氏の徹底したお客様目線は一体どの様にして培われたのだろうか。
「最初に勤めたテレウェイヴでは貴重な経験をさせてもらいました。これも自分の発案だったのですが、お客様の下でしばらく働かせてもらって現場のニーズを掴む、ということをしていました。一番面白かったのが築地市場のプロジェクトで、魚市場とやっちゃば(青果市場)でハチマキ締めて半年間働いていました(笑)。
仮説って大事だと思うんですね。それに従って検証する訳ですから。けれども築地では期待を見事に裏切られて『築地の業者にインターネットは必要ない』という結論に達しました(笑)。水の飛び散る市場でPCは無力ですから(笑)。でもここで多くの飲食業の方と接する機会を得て、どんな情報発信が必要かなどを学べたと思います」
もはや目線うんぬんの話ではない。相手の懐に飛び込んでいって強力な関係を構築する、この胆力こそが同社の原動力なのだ。そのことを説明するのにこれ以上のエピソードが必要だろうか。
「最後に情熱がモノをいう」というGENOVAのスローガンに嘘はないとみた。
「GENOVA FMS」http://www.genovafms.com/
●主な事業内容●
(1)WEB構築事業
不動産、歯科、建築リフォーム業を中心に600社以上にWEBサイトの構築を展開。MovableTypeをベースに独自プラグインを実装することで、よりユーザビリティを高めたシステムが特徴。代表的なシステムとしてフォーム管理ツールのGENOVAFMSが挙げられる。昨年からはモバイル、SEM、美容業界にE-コマースも展開し、インターネット総合コンサルティングを目指し拡充を図る。
(2)プロダクト開発事業
業種特化のWEB付加サービスとして、プロダクト開発を展開。スターティア株式会社と共同で電子ブックの開発(出版社を中心に250社以上導入)、また、某IT系企業と共同でアクセスログ解析の開発も従事。(500社以上導入)。
【導入事例】更新性を極めた、最新の不動産物件紹介サイト!
日建住宅販売株式会社ではリノベーション(既存の物件に大規模改修を施して価値を高めること)した中古マンション情報をタイムリーに発信。施工前と後の間取りを表示し、スタッフブログで現場の声を伝えるなど各所に工夫が。外注に出して発生していた更新コストを削減した。
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文:斉藤円華、写真:岡部ユミ子
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