2008年04月24日

書店員さんたち

 昨日、高坏編集長と待ち合わせたのは、11時の新橋駅。

 10分前に着いてから、どこにいようか少し迷ったが、新橋と言えばここでしょう、と蒸気機関車の広場に出る。
 11時ちょうどに編集長から電話。
「どちらにいらっしゃいますか?」
「機関車の方の改札です」
「そうですか。わかりました。行きます」

 編集長が行きたかったのは、逆方向、汐留方面だった。
 最初に訪れた某書店で、かつてない歓待を受ける。
 その店の店長さんは、POP──つまり、書籍が置いてある棚に飾られる惹句が書かれたカード(手書きであることが多く、それゆえ暖かみとリアリティが増す)の達人の一人で、近日に収録・放映される「タモリ倶楽部」の「書店POP王選手権」(正式なタイトルは知りません)にも出演が決まっているのだと編集長から聞いていた。
 2店を掛け持ちするその店長さんは、美しい女性だった。
 仕事を離れて拙著『クリムゾン・ルーム』を読んで下さっていたようで、忙しい中、バックヤードに案内していただいた。
「POPも作りかけていたんです」と見せてくださったそれは、オリジナルの解説文がついた立派なもので、赤い紙の上にコラージュが施されている。
「ご自分で解説を書いてくださったのですね」

 自著へのサインの他、慣れぬ手で初めて、2枚の色紙を書かせていただいた。

 何店かを訪問し、編集長に昼食をご馳走になる。
 薩摩黒豚のとんかつの店である。
 編集長は小柄ながら、160gのロースカツ御膳を、とん汁からデザートまで余すことなく召し上がっていた。

 東京駅で途中下車し、ここでも何店か訪問したのち、日本橋へ歩く。
「もう残り1冊ですから、補充しなくちゃと思っていたんです。今、お願いしていいですか?」
 と、目の前で「バンセン」(漢字が判らない)を捺し、注文を下さるのがありがたい。

 浅草へ向かい、ある書店を目指して六区を歩く。
 天気のいい、暖かい日だ。
 編集長の学生時代の思い出などを聞く。
「今日は、夕食をご一緒できなくてすみません」
 めったに人に誕生日を教えない編集長の、今日が誕生日なのを知っていた。
「お誕生日ですものね。ご家族がお祝いしてくれるのでしょう?」
「実はそういうわけです」
「おめでとうございます」

 上野へ出て、先日、目の前で注文をくれた某書店へ。
「また来てくれたの? ありがとうね」と忙しそうな店長。
 編集長が、手書きPOPを渡す。
「使わせてもらいますよ。頑張ってね。あ、そうそう『新文化』見たよ。びっくらこいちゃった」
 一面と三面に、ごっつい記事を書いてくれた出版業界紙「新文化」の影響力はすごい。

 上野から大宮へ向かうが、赤羽で途中下車。
 あんなに大きな駅だったのか──赤羽。

 そして川口の某書店。
 文芸担当かつ店長代理のN氏が、大きく展開して下さっていた。
「ここにパネルが欲しいんですけどね。とりあえず、2面にしているんです」
「営業の者に手配します」と編集長。
 実はその大展開のきっかけを作ったのが、サンマーク出版の敏腕営業部員である若手・池尻嬢である(すごく可愛いんだこれが)。
 
 大宮を目指す。
 構内の某書店の店長は、文芸の読み手として名高い。
 パイロット版の時点で拙著をすごく気に入ってくれ、初回配本時にどっさり並べてくださった。
 創作にまつわる意見やアドバイスなどをもらった。

 高坏編集長とは、どちらからともなく張り合うふうに、横にエスカレーターがあるというのに階段を上ったりする。
 どちらかが二段とばしすると、もうひとりもそうしたり。
 が、お互い、そう若くはない。
「なんか、今日もかなり足腰来そうですね」
 どちらからともなくそんなことを言い合い、笑う。
 途中で買うもの──ミネラルウォーター、タオル地のハンカチ。
 ただし大汗をかいているのはもっぱらこちらで、編集長はすっきりした顔をしている。

「なんか、足の指が痛くって」と言うと、
「私もですよ。足の小指の横が」
「あ、僕もそこです」
「同じところですか」
「なんかこう、靴に当たるっていうのか」
「そうそう!」

 大宮から池袋を目指すべく、特急電車に乗る。
 普通車両は満員に近い。
「座っちゃいましょうか」と編集長に誘われ、グリーン車に乗り込む。
 1車両(と言っても、前方はドアで仕切られ、スモークガラス越しに2階へ続く階段が見える)に12席のグリーン車は、離れたところに相客が一人いるだけでひたすら快適だった。

 王子や田端あたりの風景は、実に風情があった。
 それらをびゅんびゅん飛ばして、電車はたちまち池袋に。
 もっと乗っていたいほどだった。

 池袋で訪れた某店も、素晴らしい展開をしてくれていた。
 ここでも追加注文をいただく。

 編集部へ戻るという編集長とは駅で別れ、別な書店を偵察に行った。
 17時も過ぎていたので遠慮したが、文芸担当の方にご挨拶して、編集長から預かっていた手書きのPOPを渡す。

 さすがにここで電池が切れたようになり、街角の喫煙コーナーで座る。

 夕刻の池袋はみるみるうちに、人が溢れ出す。
 西口に出て、キャッシュ・オン・デリバリーのショットバーで一息つく。

 本というのは、自動販売機で清涼飲料水が売れるのとは、まるで逆な売れ方をするんだなと考えた。
 そりゃあ、ほっといても、売れるものは売れる。
 が、書き手や編集者やデザイナーや、いろんな人の思いがこもった書籍という商品は、購買者=読者の手に取られなければ、ただの閉じた箱である。
 人に先立ってそれを開き、いいものだと信じればそれを前に出す──コメントをつけ、心の中で応援する。
 それが書店員さんの仕事であると知った。
 ブティックのように、
「これがお似合いですよ」と客に勧めることはないが──いや、昔ならそうやって顧客と付き合っただろうその伝統が、今にも通じているようだ。
 媚びることもへつらうこともないが、自分の分身あるいは子孫とでもいえるような著作が、行く先々でどんなふうに可愛がられているのかを見ることは、実に感動的だ。
 ましてや読むことにおいてプロである書店員さんから、
「読みましたよ。面白かった!」なんて言われたものなら、有頂天である。

 愛に支えられている業界なのである。
 深いわあ……書店。
posted by TAKAGISM at 00:00| Comment(1) | 仕事
この記事へのコメント
「番線」と書くそうです。公式サイトの注文票を作る時に勉強しました〜。
Wikipediaの「書店」の項目を見ると興味深いです。
Posted by E垣 at 2008年04月25日 04:40
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