11時ちょうどに編集長から電話。
「どちらにいらっしゃいますか?」
「機関車の方の改札です」
「そうですか。わかりました。行きます」
最初に訪れた某書店で、かつてない歓待を受ける。
その店の店長さんは、POP──つまり、書籍が置いてある棚に飾られる惹句が書かれたカード(手書きであることが多く、それゆえ暖かみとリアリティが増す)の達人の一人で、近日に収録・放映される「タモリ倶楽部」の「書店POP王選手権」(正式なタイトルは知りません)にも出演が決まっているのだと編集長から聞いていた。
2店を掛け持ちするその店長さんは、美しい女性だった。
仕事を離れて拙著『クリムゾン・ルーム』を読んで下さっていたようで、忙しい中、バックヤードに案内していただいた。
「POPも作りかけていたんです」と見せてくださったそれは、オリジナルの解説文がついた立派なもので、赤い紙の上にコラージュが施されている。「ご自分で解説を書いてくださったのですね」
薩摩黒豚のとんかつの店である。
編集長は小柄ながら、160gのロースカツ御膳を、とん汁からデザートまで余すことなく召し上がっていた。
「もう残り1冊ですから、補充しなくちゃと思っていたんです。今、お願いしていいですか?」
と、目の前で「バンセン」(漢字が判らない)を捺し、注文を下さるのがありがたい。
浅草へ向かい、ある書店を目指して六区を歩く。
天気のいい、暖かい日だ。
編集長の学生時代の思い出などを聞く。
「今日は、夕食をご一緒できなくてすみません」
天気のいい、暖かい日だ。
編集長の学生時代の思い出などを聞く。
「今日は、夕食をご一緒できなくてすみません」
めったに人に誕生日を教えない編集長の、今日が誕生日なのを知っていた。
「お誕生日ですものね。ご家族がお祝いしてくれるのでしょう?」
「実はそういうわけです」
「おめでとうございます」
上野へ出て、先日、目の前で注文をくれた某書店へ。
「また来てくれたの? ありがとうね」と忙しそうな店長。
編集長が、手書きPOPを渡す。
「使わせてもらいますよ。頑張ってね。あ、そうそう『新文化』見たよ。びっくらこいちゃった」
一面と三面に、ごっつい記事を書いてくれた出版業界紙「新文化」の影響力はすごい。
上野から大宮へ向かうが、赤羽で途中下車。
あんなに大きな駅だったのか──赤羽。
そして川口の某書店。
文芸担当かつ店長代理のN氏が、大きく展開して下さっていた。
「ここにパネルが欲しいんですけどね。とりあえず、2面にしているんです」「お誕生日ですものね。ご家族がお祝いしてくれるのでしょう?」
「実はそういうわけです」
「おめでとうございます」
「また来てくれたの? ありがとうね」と忙しそうな店長。
編集長が、手書きPOPを渡す。
「使わせてもらいますよ。頑張ってね。あ、そうそう『新文化』見たよ。びっくらこいちゃった」
一面と三面に、ごっつい記事を書いてくれた出版業界紙「新文化」の影響力はすごい。
あんなに大きな駅だったのか──赤羽。
文芸担当かつ店長代理のN氏が、大きく展開して下さっていた。
「営業の者に手配します」と編集長。
実はその大展開のきっかけを作ったのが、サンマーク出版の敏腕営業部員である若手・池尻嬢である(すごく可愛いんだこれが)。
大宮を目指す。
構内の某書店の店長は、文芸の読み手として名高い。
パイロット版の時点で拙著をすごく気に入ってくれ、初回配本時にどっさり並べてくださった。
創作にまつわる意見やアドバイスなどをもらった。
どちらかが二段とばしすると、もうひとりもそうしたり。
が、お互い、そう若くはない。
「なんか、今日もかなり足腰来そうですね」
どちらからともなくそんなことを言い合い、笑う。
途中で買うもの──ミネラルウォーター、タオル地のハンカチ。
ただし大汗をかいているのはもっぱらこちらで、編集長はすっきりした顔をしている。
「私もですよ。足の小指の横が」
「あ、僕もそこです」
「なんかこう、靴に当たるっていうのか」
「そうそう!」
普通車両は満員に近い。
「座っちゃいましょうか」と編集長に誘われ、グリーン車に乗り込む。
1車両(と言っても、前方はドアで仕切られ、スモークガラス越しに2階へ続く階段が見える)に12席のグリーン車は、離れたところに相客が一人いるだけでひたすら快適だった。
それらをびゅんびゅん飛ばして、電車はたちまち池袋に。
もっと乗っていたいほどだった。
17時も過ぎていたので遠慮したが、文芸担当の方にご挨拶して、編集長から預かっていた手書きのPOPを渡す。
西口に出て、キャッシュ・オン・デリバリーのショットバーで一息つく。
そりゃあ、ほっといても、売れるものは売れる。
が、書き手や編集者やデザイナーや、いろんな人の思いがこもった書籍という商品は、購買者=読者の手に取られなければ、ただの閉じた箱である。
人に先立ってそれを開き、いいものだと信じればそれを前に出す──コメントをつけ、心の中で応援する。
それが書店員さんの仕事であると知った。
ブティックのように、
「これがお似合いですよ」と客に勧めることはないが──いや、昔ならそうやって顧客と付き合っただろうその伝統が、今にも通じているようだ。
媚びることもへつらうこともないが、自分の分身あるいは子孫とでもいえるような著作が、行く先々でどんなふうに可愛がられているのかを見ることは、実に感動的だ。
ましてや読むことにおいてプロである書店員さんから、
「読みましたよ。面白かった!」なんて言われたものなら、有頂天である。
深いわあ……書店。
Wikipediaの「書店」の項目を見ると興味深いです。