回転する巨大ブラックホールから放たれるエネルギー
【2001年10月25日 ESA NEWS(10月22日)】
ブラックホールは周りのものを飲み込むだけでなく定常的にエネルギーを放出する可能性のあることが、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の X 線宇宙望遠鏡「XMM-ニュートン」(以下、XMM) を利用して研究しているチームによって明らかになった。
ブラックホールは太陽系ほどの領域の中に太陽 10 億個分の質量が詰まっている状態にある。重力が非常に強いので周囲にあるものはすべて吸い込まれてしまうのだ。ブラックホールに吸い込まれる直前のガスやダストはブラックホールの周囲に降着円盤(accretion disc)と呼ばれる高速回転する円盤を形成し、その摩擦によって強力な X 線を発する。
ドイツ Eberhard-Karls 大学の Jörn Wilms 博士たちの研究チームは昨年 6 月に XMM で 1 億光年かなたの渦巻き銀河 MCG-6-30-15 を観測、エネルギーは銀河のブラックホールに流れ込むだけでなくそこから流出していると結論付けた。
広がったスペクトル線は降着円盤のもっとも内側、ブラックホールに吸い込まれる直前の物質から発せられたものである。このような強力なエネルギーを放出する仕組みについてはさまざまな議論があるが、今回 XMM で得られたデータは 25 年以上前にケンブリッジ大学の Roger Blandford と Roman Znajek が提唱したモデル――回転エネルギーはブラックホールから脱出することが可能であるというモデル――によく一致した。
XMM は ESA のプロジェクトの一つで、1999 年 12 月に打ち上げられた。集光力に優れるのが特長で、淡い対象を観測したり、今回のように詳細なスペクトルを得たりする際に威力を発揮する。なお、他の代表的な X 線観測衛星として、NASA の「チャンドラ」がある。チャンドラは集光力では XMM に劣るものの、高い解像力――すなわち、より細かな構造をとらえる能力――を持つ。