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【社説】

米国産牛肉 『単純ミス』が恐ろしい

2008年4月25日

 米国産牛肉から、牛海綿状脳症(BSE)の原因物質が蓄積しやすい部位がまた見つかった。消費者庁創設も表明されたばかり。政府には、消費者の視点に立った食の「安心」確保が望まれる。

 BSEの病原体とされる異常プリオンは、その99%が頭部や脊髄(せきずい)、脊柱(せきちゅう)などに蓄積される。厚生労働省はこれらを特定危険部位に指定している。特定危険部位が確実に取り除かれていなければ、牛肉は安心して食べられない。食品流通の基礎知識のはずである。

 農林水産省は、今度の混入は「梱包(こんぽう)時の単純ミス」として、出荷工場からの輸入停止にとどめ、二年前、検疫の手続き中に背骨が見つかった時のように、米国産牛肉の全面禁輸措置は取らない方針だ。

 だが、その「単純ミス」が恐ろしい。特定危険部位が混ざっていたのは、冷凍保管された七百箱、十七トンのうちの一箱だ。とはいうものの、二十七キロもの“危険物”が、安全であるべき食べ物の中に「うっかり」混入し、チェックの網をくぐり抜けて、他国に輸出された事実は重い。作業管理、検査態勢ともにずさんのそしりを免れない。「単純ミス」も再三続けば、日本の消費者を軽視していると批判されてもしかたがない。

 米国政府や食肉業界は、日本の品質要求は厳しすぎると指摘する。が、ことは健康や生命をはぐくむ食べ物の問題だ。安全チェックは厳しすぎるくらいでいい。今度のケースは国内のチェックが効いたから、危険を回避できたのだ。

 米国では、BSEそのものを日本ほど問題視していないと言われるが、買い手側の要求に合わせて品質を整えるのは“商い”の常識ではないか。

 先週、韓国が米国産牛肉の輸入条件緩和で合意した。「月齢二十カ月以下」という日本の厳しい輸入制限に不満を持つ米国は「日本も続いてほしい」と、規制緩和圧力を強めている。しかし、中国製ギョーザ中毒事件以来、輸入食品の品質管理や安全性に強い不信を抱く消費者は、このままでは納得できないだろう。

 「単純ミス」と割り切らず、政府は米国側に原因究明と、今度こそ再発防止への具体策を、まず強く求めるべきだ。そして、消費者がその結果や内容に納得するのを見定めてから、規制緩和を考えても遅くない。

 日本の消費者心理は、「安さ」から「安心・安全」へと、少しずつ傾き始めているのだから。

 

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