東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

尼崎事故3年 安全を優先しているか

2008年4月25日

 乗客百六人が死亡、五百人以上が負傷したJR西日本の福知山線脱線事故から満三年。同社は新たな安全対策を決めたが、社員一人一人の意識改革が徹底するまでは気を緩めてはならない。

 「お客さまの死傷事故ゼロ、社員の重大労災ゼロに向けた体制の構築が安全基本計画の到達目標です。全社を挙げてこの計画の遂行に努力していきたい」。今月初めに開いた遺族らへの説明会で、山崎正夫社長は安全性向上への決意を語った。

 新計画は二〇〇八年度から五年間に同社の安全輸送体制を強化することが狙いだ。昨年六月の航空・鉄道事故調査委員会の最終報告などを踏まえ、企業体質を変えるための課題を明記している。

 経営面では「リスクアセスメントの導入」を行う。“事故の芽”や小さなトラブルなどを見つけて点数化し、リスク(危険)の大きさを見積もる。そしてリスクの高い事柄から対策をとって重大事故の発生を防止するという。

 社員教育では昨春開設した「鉄道安全考動館」を全社員に見学させる。旧国鉄時代からの事故の写真や模型、遺族の手紙などの資料のほか、今後は事故車両も展示して大惨事の風化を防ぐ考えだ。

 今回の安全対策は〇五年四月の事故直後に緊急に策定した「安全性向上計画」を発展させたものだが、遺族らの評価は厳しい。

 率直に言えば「乗客の死傷者ゼロ」は、公共輸送機関として当たり前の話だ。安全確保をあらためて強調しなければならないところに同社の病根の深さがある。

 社員の意識は本当に変わったのか。同社は昨年夏、全社員を対象に意識調査を行った。過去二年間で会社や職場は「安全が何よりも優先されている」ようになったかを聞いたところ「そう思う」と肯定的な答えが圧倒的に多かった。

 この結果から「社員の意識は着実に向上・改善している」と分析しているが、甘すぎる。意識調査をするならば、遺族たちや利用客の声を聞くべきではないか。

 社内風土の改革には企業体質を変えることが重要だ。職場でのコミュニケーション確立やチームワークの再構築、高水準の安全投資など人と組織、設備全体を見直さなければならない。二十年余り前のJR発足当時の緊張感を思い出してほしい。

 補償問題もこれからだ。遺族との合意はまだ二割程度、負傷者は七割程度という。誠意をもって丁寧に対応する責任がある。

 

この記事を印刷する