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社説:米国産牛肉 単純ミスでは片付けられない

 牛丼の24時間販売を再開した吉野家で、牛海綿状脳症(BSE)対策により輸入が認められていない特定危険部位の背骨(脊柱(せきちゅう))が混入した米国産牛肉がみつかった。政府は、出荷した米カリフォルニア州の工場からの輸入を停止する措置をとった。

 米国でBSEが発生したことから、政府は03年12月に米国産牛肉の輸入を停止した。牛が生後20カ月以下であることや、危険部位除去などの条件をつけ、05年12月に輸入を再開した。

 ところが、直後に背骨の混入が見つかり、再び輸入が停止された。米国内の食肉処理施設が、日米間の合意内容をちゃんと理解し、必要な対策を実施しているのかを確認する作業を行い、06年7月に再び輸入を再開したといういきさつをたどってきた。

 この間、吉野家は牛丼の販売停止を余儀なくされ、輸入再開後、十分な量が確保できるようになったことから、今年3月に牛丼の24時間販売を再開した。その直後に、また背骨の混入が発見されたことになる。

 今回、背骨の混入が見つかったのは、吉野家の埼玉県内の加工工場で、700箱の冷凍ばら肉のうちの1箱からだった。残りの699箱に問題はなかったが、廃棄処分とした。

 米農務省は、日本以外に向けた製品が誤って輸出されたと説明している。混入は1箱のみで、農水省も「システム上の重大な問題ではない」とみている。

 しかし、BSE問題について日米がたどってきた経過を考えると、単純なミスと言って片付けられる問題ではないだろう。

 中国産の冷凍ギョーザや相次ぐ食品偽装問題で、食の安全に対し消費者は敏感になっている。スーパーの間で、再び米国産牛肉の販売停止の動きが広がっている。消費者の信頼を保つため、できうる限りの対応をとるのは当然のことだ。

 今回、吉野家は、混入を発見した後、ただちに政府に報告した。それによって、政府も対応措置をとることができた。

 輸入段階での検査を強化すべきだが、全量を検査するのは現実的ではないとすると、問題のある食品を流通経路から排除するには、今回のような官民の協力が欠かせない。

 再発を防ぐには、米側の取り組みが第一であることは言うまでもない。原因の究明と再発防止策の徹底を求めたい。

 スーパーでの販売停止など日本国内の対応が過剰だという声が米国から出ている。しかし、食品の安全に対するとらえ方は国によって異なる。日本で米国産の牛肉を販売したいなら、日本の消費者から信頼を得られる対応をすべきだ。

 牛の月齢などに関し、政治的圧力をかけて日本の譲歩を引き出そうとするのは、逆効果であることも、改めて指摘しておきたい。

毎日新聞 2008年4月25日 東京朝刊

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