◎舳倉島・七ツ島調査 「秘境」で探る地球のSOS
日本海の孤島・舳倉島と、七ツ島の自然環境はこの半世紀でどう変わったか。北陸最後
の「秘境」で、本紙が四十八年ぶりに行う大規模な自然環境調査は、地球温暖化や大気、水質汚染といった地球が発するSOSに耳を傾ける試みである。と同時に多彩で豊かな古里の自然を再発見する旅でもある。そのひそやかな声に耳を澄ませ、明日への処方せんを読者とともに考えたい。
舳倉島は輪島市の北方約五十キロ付近にあり、七ツ島は舳倉島と輪島市のほぼ中間点に
位置している。舳倉島の人口はわずか百数十人、七ツ島は絶滅危惧種のカンムリウミスズメが生息する無人島で、石川県民でも足を踏み入れたことのある人はまれだろう。
今回の調査の狙いは、まず北國新聞社が一九六〇年に金沢大学と行った調査時点から何
がどう変わり、何が変わらなかったのかを知ることだ。孤島ゆえに陸上や水辺の植物分布には際立った特性がある。海流の影響を強く受け、能登半島近辺には見られぬ南方系、北方系の植物、海草が混在するという。哺乳類、爬虫類、鳥類、昆虫類などの生息状況も特殊で、とりわけ海鳥、渡り鳥の種類の豊富さは群を抜く。
地球の歴史からみれば、半世紀などほんの一瞬に過ぎないが、最近の地球温暖化の深刻
さを思うと、これまでの常識は通用するのだろうか。酸性雨や地下水、海水温、大気などの調査から、地球の変化の兆しが見て取れるかもしれない。半世紀前にはほとんどなかったはずの膨大な漂着ごみ、渡り鳥が介在するとみられる鳥インフルエンザの感染拡大、十一年前のナホトカ号重油流出事故の影響がどの程度残っているかといった調査項目にも注目したい。
このほか、地形や地質、海底地形、地下水といった地理学からのアプローチも重要だ。
能登半島地震で地殻の隆起はあったのか、地下水や海底地形は変質したのか。
こうしてみると、私たちの古里は懐が深く、まだまだ多くの謎がある。地球温暖化とい
う重い課題を背負うにせよ、今回の調査のなかに、古里の不思議に迫る楽しみをも見い出せるはずだ。
◎米産牛肉に危険部位 やむを得ぬ「二重基準」
米国産輸入牛肉から、牛海綿状脳症(BSE)の原因物質がたまりやすく、輸入が認め
られていない特定危険部位の脊柱がまた見つかったのは残念であり、政府が検疫検査を強化したのは当然である。ただ、今回発見された米国産牛肉の脊柱は日本では危険部位とされ、除去・焼却しなければならないが、国際基準では危険部位とみなされず、米国内で流通している。この一事をもって米国産輸入牛肉をすべて忌避するような過剰な反応は慎みたい。
米国産牛肉の輸入再開後、特定危険部位の混入が判明したのは〇六年一月以来、二回目
である。その時は輸入停止措置がとられ、米側の出荷体制が一段と厳格にされたはずである。それにもかかわらず、失敗を繰り返す米食肉処理業者の至らなさを指摘せざるを得ないが、ミス防止に完ぺきを期しがたい背景には、牛肉の安全性に関する基準が米国内向けと日本への輸出向けとで異なる二重基準(ダブルスタンダード)の状態が続いていることがある。
日本は米国からの輸入牛肉を生後二十カ月以下に限定し、危険部位は月齢に関係なくす
べての牛から除去することを義務づけている。これに対して、米国は国際獣疫事務局(OIE)の指針に従って、脊柱や脊髄、頭蓋などの危険部位の除去は生後三十カ月以上の牛を対象にしている。米側は国際基準に即した対応を求めているが、日本としては国民の安全意識の高まりから、国内の安全基準を簡単に緩めるわけにいかない。それぞれに一理ある基準を統一するのは困難であり、二重基準の状態が続いてもやむを得ない。
米側は条件緩和を求めて日本の当局と協議を進めている。落としどころとして、輸入の
月齢条件を三十カ月未満に緩和する案も出されているようだが、危険部位除去の基準を含めて条件緩和は慎重に判断せざるを得まい。今回の「事件」の問題点を過大評価も過小評価もせず、冷静に安全性の議論をしてもらいたい。前回と異なり、安全性に直接問題はないとして輸入停止措置をとらなかった政府の対応を是としたい。