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中国“A女”の悲劇

第6回 欧米人夫妻にもらわれていく中国の女児たち

<A女>の出現が女児遺棄を防ぐという皮肉

 斡旋するのは「中国収養中心(センター)」(CCAA)。中国人孤児をもらいに来るのは、ノルウェーとかフィンランド等のヨーロッパ諸国、あるいはロシアからもあるが、8,9割がたがアメリカだ。

 中国の権威ある新聞の一つである「参考消息」は、2006年2月6日付けの報道で、そのアメリカの状況に関して詳細に報じている。それによれば、1992年にアメリカ(白人)の夫婦に貰われていった中国人孤児はわずか206名だったが、2002年には5053名、2004年には7704名で、2005年までには計5万人以上に達しているとしている。

 なぜアメリカが中国の孤児を貰う傾向にあるかを「参考消息」は分析し、その理由として、次の3つを挙げている。

  1. 中国の孤児は「重男軽女」(男尊女卑)という伝統的な観念を中心とした社会的な背景により生まれたものであって、決して飢餓とか戦争などによるものでないため、他国の孤児に比べて健康であり、聡明でもある。他の国の孤児は、親が麻薬中毒だったりアルコール中毒だったりすることが多く、子供の心身に悪影響をもたらしている。
  2. 中国の「収養」機構は健全で、経費も比較的に安く、手続きが厳格なので安心できる。
  3. 養父母志願者の一部は、中国文化に対して一定の理解があり、かつ中国に対して好感を持っている。

 養父母志願者はアメリカ政府により資格要件に関して厳しい審査を経た上で、中国収養センター(CCAA)を通して孤児を紹介してもらう。

 孤児を貰い受けるまでにかかる経費は、往復航空費も含めて、1.5万ドルから2.5万ドル。そのうち3000ドルから5000ドルは孤児院に支払う。

 驚くべきことは、なんと、この孤児の「95%が女児」というデータだ。

 これこそが、約10年間ほどにわたって、明確にしてはならない疑問として私の頭の中を行ったり来たりしていた理由でもあった。この95%という数値を知ったとき、私はようやく合点して、この事実を文字にする気持ちになったわけである。

一人っ子政策が、男女比の狂いを生じさせた

 五つ星ホテルで、いつも見かけてきた光景。それは一人っ子政策により女児を捨てるという結果がもたらしたもので、これは一人っ子政策の災禍の氷山の一角に過ぎない。中には懐妊後、性別が判定できる時期になると、お腹の中の胎児の性別を判定してもらい、「女の子のようだ」という結果が出ると、堕胎してしまうケースも散見される。

 おまけにその判定が、必ずしも100%的中するわけではない。まだ小さいので、みまちがえることがあるのだ。堕胎後に男児であったことを知って、気が狂ったように嘆き悲しむ母親もいる。しかし、非合法で堕胎しているだけに、誤診を訴えることもできない。私の友人の一人は、その後懐妊できない体になり、一人っ子政策と医者を恨みながら、不幸な一生を送っている。おまけに男子誕生を渇望していた夫が、他の若い女性と不倫し、孕ませてしまった。激怒した彼女はすぐに離婚し、今は一人身である。

 ここで押さえておかなければならないのは、こういう性別識別による堕胎手術を行うことができるのは金持ちたちであり、また一部の都市住民のうち罰金を支払ってでも第二子を生むことができるのは、やはりかなり裕福な家庭ということになる。となると、金持ちであるか否かで、どういう形で子供を持つことが許されるかが決まるということになる。市場経済は熾烈な競争社会を生み出し、中国の貧富の格差は深まるばかりではあるが、これはいくらなんでも、道義的には容認しにくいのではないか。庶民の間からは多くの不満が噴出している。

 このようなさまざまな問題をはらみながら、中国の人口は男女比率に異常を来たすようになり、それが遂に表面化するようになった。

 国家人口・計画生育委員会は、2004年7月15日に国務院新聞弁公室で記者会見を行い、中国の全国平均男女比率は現在、男:女=116.9:100であるものの、2020年には3000万人から5000万人の結婚適齢期の男性が余るだろうと発表した。もっとも、ここには出生届けを出さない「黒孩子(ヘイ・ハイズ)」と呼ばれている闇っ子の女の子たちが隠れており、数としておもてに出てこないという側面もないではない。

 それを別とすれば、少なくとも、おもてに出ているデータからすれば、女性が余るのではなく、男性が余るというのである。

 2005年8月24日には、同じく国務院新聞弁公室は『中国性別平等と婦女発展状況』という白書を発表したが、それによれば男女比はさらに悪化し、全国平均で男:女=119.86:100に増加しているという。ということは、全国的に見れば、結婚できない男性が増えるという傾向は、ますます顕著になりつつあるということになる。

 これはまた、なんと歪(いびつ)なことだろう。

都会の<A女>と、農村の結婚できない男たち

 都市におけるホワイトカラーの女性たちが結婚できずに「剰女」などという侮蔑的呼称で呼ばれる一方で、全国的に見たら、極端な「剰男」現象が起きるというのだ。いや、すでに起きている。

 ということは、都市では「結婚できない<A女>たち」が溢れ、農村では「結婚できない男」たちが数千万単位で溢れている、ということになる。

 この男性群、どう考えても、いわゆる<A男>群であるとは思いにくい。しかも農村なので、農民ということになろうか。

 都市の男性は、農村から洪水のごとく入り込んでくる女性群がいるので、それが<B女>以下であっても、前にお話ししたように、「女性的魅力」を持っていさえすれば、結婚の対象となり得る。だから都市の男性が結婚にあぶれるということは少ない。あぶれるどころか、田舎から出てきていきなり成り金になったような男性群は、「二号さん」、「三号さん」を、いくらでも隠し持っている、というのが、中国庶民の常識でさえある。それもまた、権力の証として満喫している男性群もいる。

 かくして、あぶれるのは、都市の「できる女たち」と農村の男性群。農村の中には、若者と子供は男だけしかいないような村さえある。

 これは、どんな社会を生み出していくことになるのだろう。

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このコラムについて

中国“A女”の悲劇

中国にも「負け犬」はいた。自らの力で高い社会地位を勝ち得、年収も男に負けない。容貌も美しい。そんな隙がない彼女=「A女」たちには、なぜか結婚相手が見つからないのだ。悩みは深く、自慢の娘に結婚相手を探そうと、数千人の父母たちが、日本で言うところの「釣書」を持って公園に集まるほど。この現象の背景にはなにがあるのか。大好評の連載『中国動漫新人類』に続き、遠藤誉博士が中国社会にふたたび挑む。

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著者プロフィール

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

1941年、中国長春市生まれ。京都精華大学国際交流担当顧問、筑波大学名誉教授、帝京大学グループ顧問(国際交流担当)、理学博士。中国国務院西部開発弁公室人材開発法規組人材開発顧問。著書に『チャーズ』(読売新聞社、文春文庫)、『中国大学総覧』(第一法規)、『中国大学全覧2007』(厚有出版)、『茉莉花』(読売新聞社)、『中国教育革命が描く世界戦略』(厚有出版)、『中国がシリコンバレーとつながるとき』『中国動漫新人類〜日本のアニメと漫画が中国を動かす』(日経BP社) ほか多数。当サイトの連載「中国動漫新人類」と「中国“A女”の悲劇」が大きな注目を集めている。「動漫」の連載を始めた詳しい経緯は、こちらの同連載第1回に。二児の母、孫二人。

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