口腔内からスワブで軽くかき取った検体を用いて、肺癌(がん)を診断できる可能性が示された。口腔組織の分子レベルの損傷が、たばこに含まれる発癌物質への長期曝露によって生じる肺組織損傷の極めて正確な指標となるという。研究者らは、この方法から、素早く簡潔に実施でき、痛みも少ない肺癌診断法の開発が期待できるとしている。
研究を行った米テキサス大学M.D.アンダーソン癌センター(ヒューストン)のLi Mao博士は「口腔細胞がたばこによる肺損傷を反映するのかどうかを明らかにしようとした。その結果、90%を超える比率で、口腔細胞と肺組織に同じ異常が認められることが判明した」と述べている。Mao氏はこの知見を、米サンディエゴで開催された米国癌学会(AACR)年次集会で発表した。
Mao氏らは、大規模な肺癌予防研究に参加した喫煙常習者のうち127人から採取した計1,774件の口腔および肺の組織検体を比較。抽出したDNAについては、通常は癌の成長を抑えるのに有効な2つの遺伝子について、その機能を妨げるような作用を及ぼす分子変化についての証拠を探索した。3カ月にわたる2回の分析から、この組織損傷が口腔組織と肺組織にほぼ同様に現れることが判明した。ただし、肺組織に異常があっても口腔組織には異常がない人もいたことから、さらに研究を重ねる必要があるとMao氏は述べている。
米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)教授Stanton A. Glantz氏は、この知見に対して懐疑的な見解を示しており、口腔細胞と肺の分子変化には明らかな関連性がみられるものの、患者の診断に利用できるほど密接な関連があるというには時期尚早と述べている。しかし、さらに研究を洗練することで、詳しい検査を必要とする患者の特定に役立つ可能性があると同氏は付け加えている。
なお、同会議では、他の癌研究分野での診断方法の進歩を示す数々の知見も発表された。米ヘンリー・フォード病院(デトロイト)の研究グループは、唾液のDNA分析によって頭頸部扁平上皮癌を早期に検知できると報告。米ダナ・ファーバー癌研究所(ボストン)の研究チームは、侵襲性の高い卵巣癌である漿液性癌の半数が、卵巣表面の細胞ではなく卵管組織に由来するという証拠を得た。また、スペイン国立癌研究センターのチームは、非侵襲性の膀胱癌スクリーニングにつながる血液抗体の分析方法を発表した。
原文
[2008年4月16日/HealthDay News]
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