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社説:硫化水素自殺 死を誘発するサイトの罪深さ

 市販の洗剤などを混合して発生させた硫化水素ガスによる自殺が、各地で続発している。高知県香南市では中学3年の女子生徒が自殺した市営住宅からガスが漏出し、家族や近隣の約90人が病院で手当てを受けたほか、75人が体育館に避難して一夜を過ごす騒ぎとなった。巻き添えで死者が出たケースもあり、事態は深刻だ。

 硫化水素を使った自殺が目につき出したのは1年ほど前からで、インターネットの自殺サイトで「簡単で確実に死ねる」として生成法が紹介されているため、最近は若者を中心に流行のように広がっている。

 日本では百余年前、栃木・日光の華厳の滝で旧制一高生が投身自殺した後、半年間に十数人が後を追うように身を投げたのをはじめ、1人の自殺をきっかけに連鎖反応的に追随者が現れる現象が繰り返されてきた。86年に東京・新宿でアイドル女性歌手がビルから飛び降り自殺した後は、2週間で二十数人の少年少女が理由のはっきりしない自殺を遂げている。

 戦前の伊豆大島・三原山など時代とともに“自殺名所”も生まれては消えてきたが、インターネットが普及してからというもの、自殺サイトが同じ手段による自殺を広い範囲で誘発させる新しい現象が生じた。

 最近は見知らぬ者同士が練炭で集団自殺を図るケースが相次いでいるほか、自殺願望者が“殺し屋”を募り、実際に請け負った男に殺害される事件まで起きている。命を軽んじる風潮を背景に、自殺へと駆り立てるインターネットの魔力の不気味な広がりに、慄然(りつぜん)とするばかりだ。

 硫化水素自殺の場合は、従来の手段よりも第三者を巻き添えにする危険が大きい。自殺サイトが自殺の誘因となっているだけでなく、硫化水素が別の犯罪に悪用される可能性も重視し、警察当局は監視に努めて、ネットの開設者やプロバイダーに自粛や削除を求めるべきだ。自殺との因果関係が認められた場合は、自殺ほう助罪の適用なども視野に入れて取り締まりを強める必要がある。自殺サイトに限らず、反社会的なサイトを追放する機運も、盛り上げねばならない。

 問題の洗剤などのメーカーには直接の責任はなくても、混合しても毒性ガスを発生させないように、あるいは毒性を弱めるように成分を変更するなどの工夫を期待したい。これまでにも自他殺に使われた殺そ剤や農薬類を追放した経緯があることも忘れられない。

 抜本的には毎年3万人もの自殺者が生まれている状況を好転させぬ限り、問題の解決は望めない。政府は昨年、自殺総合対策大綱を策定、10年かけて自殺死亡率を20%減らす目標を立てたが、生死のはざまで悩む人を自殺に駆り立てる誘因については早急に除去する取り組みが求められる。

毎日新聞 2008年4月25日 0時18分(最終更新 4月25日 0時46分)

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